3

もがいて抵抗するのが鬱陶しかったから、まずアイクの両手を押さえた。マウントポジションを取っているスネークに、それは難儀なことでもなかった。いくら剛腕と言われるアイクでも今の体勢と状況からスネークを押しのけるのは難しい。無駄な抵抗を鼻で笑って、スネークはさっさとアイクの両手首をまとめて縛る。いつかのように、自身のバンダナで。
ギリギリ音が鳴ってもおかしくないくらい力を込めて縛ったから、アイクは少しだけ痛そうに眉をしかめた。スネークは気にしない。気にせず、すぐそこのベッドテーブルに無造作に放られていたアイクの鉢巻きを手にして、拘束した両手をまたいつかのようにベッドに括り付ける。呆然とそれを見ていたアイクが、さっと顔を青くして吠える。
「馬鹿かあんたッ、ほどけ!!」
「俺はな、アイク。もう充分怒ってるんだぞ?」
どれだけ喚こうがもがこうが、今のスネークは許すつもりはなかった。詰られようが知ったことじゃない。やりたいようにヤるだけ。いろいろ――欝憤とか苛立ちとか、もちろん性欲も――溜まっていたし。
「知るか・・・!いい加減にしろ、スネーク。これをほどけ」
「いい加減にするのはお前だ、アイク。焦らして拒絶して、俺が怒らないと思ったか」
「焦らしたつもりはないし、拒絶はあんたが俺を無視して勝手に入ってきたのが悪いッ」
「それこそ知るか」
アイクの顔が剣呑さを増してくる。そんなアイクが、拘束していない足を振りあげて蹴りを出してくることは予想の範疇だ。不安定な姿勢からの蹴りはそこまで強くない。難なく止めて、ついでにスネークは抑えたその足を持ち上げた。もう片方の足はすでに自重をかけて封じている。意図せず足を開いた格好になって、アイクの顔が少し赤らんだ。羞恥か、激怒か。どちらにせよそれでスネークを煽ったのは確かだ。反抗的な青目にもぞくぞくキている。屈服させたくなる。
「不様な格好だな、お前」
「誰のせいだ」
「お前のせいもあるんだぞ?くだらないことばかり喚くから」
「・・・退け、スネーク」
「やなこった」
ハッ、と鼻で笑って、それ以上またアイクが口を開く前に下肢の中心を握る。ビク、と目に見えて反応を返す様にほくそ笑む。いつかと似たこのシチュエーションで何が違うと言えば、答えは明らか、アイクの感度だ。スネークに執拗に仕込まれた体は、快感を素直にとらえる。ズボンの上からとはいえ敏感な部分を握り込まれた刺激は強い。アイクはきつく歯を食い縛って抵抗の言葉を飲み込んだ。
「反応してるじゃないか」
「黙れ」
ズボンの上からさすっただけで、半分立ち上がっていたそこがますます硬度を増していく。だがアイクは、頑なに声を出そうとしない。睨む目つきもますます険しさを増していく。スネークは抵抗を力尽くで抑えつけて犯すことで疑似強姦気分をこっそり楽しんでいたが、こうも抵抗されるとそれも萎える。変わりに増してくるのは苛立ちと焦燥だけだ。
わざと乱暴な調子でズボンを引き下ろしたときも、アイクの反応は変わらない。反抗的な目ときつく噛み締めた唇。局部だけ晒した間抜けな格好で凄もうが、怖くもないというのに。
こんな反応の相手を抱こうと思っても気分が乗らない。スネークは心底呆れた顔で聞いた。
「お前は何がそんなに不満なんだ」
スネークの納得がいく答えが返ってきたら、スネークだって態度を変える。今のままではお互いつまらないだろう?
だがアイクは、それはもう不機嫌な声で唸る。
「あんたがこの部屋にいることだ」
「・・・・・・」
当然、納得などいかなかった。
「俺だって傷つくんだぞ、アイク」
「ッッグ、あ゛・・・!!」
淡々と言いながら、アイクの局部に添えていた手を握り締める。自分の意思以上に力が入っていたかもしれない。スネークはそうとう苛立っていた。
「腹も立つし、」
「な、ぁ・・・?」
開かせた足の間、その奥の孔に軽く触れて、身を起こす。スネークの意図を悟ったのか、アイクは顔を強張らせた。久々の性交への興奮と、アイクの態度への苛立ちに中途半端な状態にある自身のモノを、奥の入口に押し当てる。
「つけ上がってるなよ、アイク」
「嫌だ、嫌だっ、スネーク。やめろ、入れるな、っっ!!」
切羽詰まった制止の声は当然、無視。中途半端な自身を、慣らしの一つもしていない後孔へ押しこんでいく。キツイ。「ぐ、」とスネークは唸ったが、アイクはそれ以上に苦しかった。無理やり入ってくる異物と目の前が染まるような痛み。だがアイクはそれよりも、スネークにとにかく出て行ってほしかった。触らないでほしかった。この部屋に入れることさえ嫌だった。絶対に嫌だった。それなのにこの男は!喚き散らしたいくらい悔しかった。
互いに唸りながらも、スネークはやっとその全身をアイクの中に収めた。中に入れてしまえば、内壁がキツく絡みついてきて痛いやらイイ具合やら気持ちイイやらで、中途半端だったムスコが徐々に力を増していく。それをアイクはリアルに感じていたから、「ぅ、ぅ、」と頭をシーツに押しつけながら顔をそらした。気持ち悪いと思っているのに、慣れた、いや慣らされた体は喜んでスネークを受け入れている。ゾクゾクしたものが背筋を這って、脱力した。
「ぁ、あ・・・、」
「イイ顔になってきたじゃないか、アイク。好きなんだろ、お前も?」
「ふぅ・・・っ、」
ぬく、と強く腰を押しつけられて目を瞑る。腰が跳ねる。呼吸が荒くなる。慣れた快楽が下肢から全身に回ってくる。だが、アイクはそれを受け入れるわけにはいかなかった。
「っけ、でて、け、いやだ、ぬけ、嫌だ、出てけ、スネーク、やだ、いやだ。出て行け。嫌だ」
「・・・・・・・・・・」
無言で、スネークはアイクを見下ろす。引きも切らず拒絶を喚くアイクに、スネークは目だけで視線をさまよわせて、手を伸ばした。
「煩いな」
「スネっ、っ、ぅ、グ・・・ッ!?」
適当に目についたタオルを手に取ったまま、アイクの頭を髪の毛ごとわし掴んでシーツへ押しつける。力尽くで上向けに固定された頭と痛みに、アイクは呻く。訝しんで見上げたスネークと目が合った。まずい。見たことのないほどの凍て付いた視線が、無感動にアイクを見下ろしている。スネークが本気で怒ったのを見たのは、初めてかもしれない。
呆然と見ていたから構えられなかった。半端に開いていた口にスネークがタオルを押しつける。そのまま無理やり口内に捩じ込まれる。大きくこじ開けられた口にタオルががっちり収まり、苦しさに目が滲んだ。
「うーーっ、ううぅー!」
「黙っとけ」
アイクが喚こうがスネークはもう気にしない。くぐもった声がどれだけ喚こうが、知ったことではない。スネークは存分に怒っていた。苛立っていた。タオルを無理やり押し込む一瞬は、強姦気分に少し興奮したが、それでは満足しないほど憤っていた。
入れたままにしていた腰を引いて、一気に奥深くまで押し込む。アイクの体が大きく跳ねたが、構わずスネークは動きを止めない。久々の性交に、持て余されていた性欲が満足していく。憤りをぶつけるように目茶苦茶に腰を突き上げる。持ち上げられたアイクの片方の足が合わせて揺れる。寝台もきしんで、キッ、キシ、と途切れることなく音を上げている。スネークも息が上がってきたし、アイクは奥も前立腺も関係なしに突かれて、耐え切れずに声が漏れている。口が塞がれているせいで、くぐもってはいるが。
「んっ、んんっ、ぅ、っん、うぅ、んんん・・・!」
「ハッ、・・・ハァ、くっ、・・・!」
ぐちゃぐちゃとあられもない水音が響くようになってきて、スネークの興奮も高まってきた。組み敷いた先のアイクは大きく揺さぶられながら、涙をぼろぼろこぼしている。快楽が過ぎるんだろう、と勝手にスネークは思っておいた。口に詰めたタオルは涙と唾液で濡れてきている。拘束した手首から、揺れる足先まで視線で舐めて、ようやくスネークは満足する。征服感は満たされた。嫌だの出てけだの喚いていたが、こうしてしまえばお前は自分の立場を思い出すだろう?
スネークは一度態勢を直して、今度は両足を担ぎ、そのまま全身を抱きしめるように腕を回す。一瞬だけ、アイクと視線が合った。アイクは、それでも力なくスネークを睨んでいた。気に障った。
「んんん!!んん、ッん、んっんっんっんっんッ、ぅ、んんー!」
アイクの肩を押さえて、何度も何度も腰をぶつける。こんなに激しく速く腰を動かしたのも初めてだ。お互いにガクガク揺れながら、スネークはアイクを睨むように見る。突き上げに合わせてひっきりなしに声を上げながら、強い快楽が堪えたのか、目を見開いて顔を仰け反らせている。狂いそうなくらいイイだろう、と声には出さず揶揄った。声に出したところで、今のアイクの耳では素通りするだけだ。
ピストンを緩めることなく、スネークはアイクの様子を窺う。達しそうだ。アイクが後ろの刺激だけで絶頂したことはまだないが、そうなってもおかしくないほどアイクの中心は高ぶっている。スネークが後孔を犯してから一度も触っちゃいないのに、だ。淫乱め、と心の中で罵るが、スネークもまた限界は近い。アイクが淫乱ならスネークは変態だ。アイクが正気ならそう指摘しただろう。だがあいにくとアイクの意識は正気には程遠い。酩酊している顔と、律動にぷるりと揺れている中心も、スネークをキツく柔らかく蠱惑的に締め付けて絡みつく内壁も、全身で快楽を訴えてくる。ヨさそうだなァ、イきたそうだなァ、とスネークは思った。が、残念。許すつもりはないんだな、これが。スネークは悪辣に笑う。
片手を戻して、はち切れんばかりに漲っているアイクの砲身に手を添える。当然のように根元を握り締めた。
「んンッ!?」
悲鳴めいた声と、「何故」と問いたそうな青目に、また満足感が込み上げる。絶対的な優位に立っていることに優越感さえ湧く。スネークはそこでやっと、慈しむ手つきでアイクの頬を撫でた。青の目が揺らぐ。
「イきたいか?」
「ぅ、ぅ・・・、」
「俺は心が広いから、とりあえず、お前が謝るなら、許してやる」
「・・・・・、」
「謝って、イかせてほしいとでも強請るなら、まあ、許してやるしイかせてもやる」
「・・・・・・・・・・、」
濡れた目が戸惑いに揺れる。そこに微かな懇願の色を見てとって、ぞくぞくした。プライドが高く、自分に非があると認めない限りは我を通して素直に謝らないコイツが、俺にいいようにされて自分の立場を思い知って、それで「ごめんなさい」と言うのなら、スネークはとても興奮すると思うのだ。スネークにSMの気はないが、ことアイク相手にはサディズムも顔を出す。
ニヤニヤ笑いながらスネークはアイクの口を塞いでいたタオルを取ってやった。案の定、唾液でぐっしょり湿っている。鼻で笑ってそれは脇に投げておいた。
「さて、アイク」
「・・・・・」
アイクは、虚ろに視線を彷徨わせていたが、やがてスネークと目を合わせると、スネークの予想に反して目をキッと吊り上げた。
「出て、行け・・・っ」
「・・・・・・・・・・チッ、」
満足感だとか、征服感だとか、優越感だとか、全部吹っ飛んで、スネークは思わず舌打ちした。弱々しく睨んでくるアイクが憎らしい。その生意気な顔を一つか二つ引っ叩いてやれば、少しは従順になるだろうか。
だがスネークはそれをするほど子供ではないつもりだし、アイクに従順さを求めてるわけでもなかった。ただ頑なに自分を拒むのが許せないだけだ。求められたいのだ、スネークは。
それでも苛立ちはあったから、アイクの下肢を握り締めたまま、スネークはまた律動を開始した。先のように激しく。散々快楽に流されたアイクは、口を解放されてはいたが、拒絶が言葉にならない。出るのは悲鳴めいた嬌声だけだった。
「ッ、ぅあっ、ああっ、や、やっ、んあっあっああッ!!」
「ッぅ・・・!」
アイクがビクビク体を跳ねさせたと同時に、内壁がキツくスネークを締め付ける。キツさと快楽に息をつめて、スネークはアイクの中に精を吐き出した。
「ぁ・・・、ぁ、ぁ・・・」
「出さずに、イった、のか?」
口の端からだらしなく涎を垂らして、顔を真っ赤にさせているアイクの瞳は酩酊している。ぐったりしながら、時折ひくんひくんと体が痙攣する。空イキ、という言葉を、アイクはもちろん、スネークも知らなかった。知らなかったが、内壁が誘うように収縮したから、スネークはまだ中に納まっている自身を2,3度突くように動かしてみる。
「ふあっ、ああっ!?」
「・・・・・」
途端に返った過敏すぎる反応に、最初こそ目を瞬かせたが、気にせずスネークはゆるゆると動き出す。たとえ性欲は残っていようが、今の状態で激しく責め立てようと思うほど、体力が残っているわけでもない。スネークも疲れ切っているのだ。散々、この恋人に振り回されたから。
いい加減。
「意地を張るのもやめてくれ、アイク・・・」
「んっ、くぁ、あっ・・・、ぁ、」
「俺の何がいけなかった?どうしてそんなに拒むんだ。俺を嫌いになったならそう言えばいい」
「っ、っ、ぅ、ぃあ、ち、がっ、んんっ・・・動くの、やめ・・・っ、」
「顔も見たくないほど嫌われたのかと思った。こう見えてな、俺はお前にゾッコンだから、そうとう不安だったんだぞ、この野郎」
「うぅ・・・、んっく、あっ、スネッ、ちょ、ゃあっ」
「せめて理由を言ってくれ・・・、お前が嫌いなところを、出来る範囲で直してやる。なあ、この俺がここまで言ってやってるんだぞ、アイク」
「はっ、はぁっ、あっああっ、・・・ふ、っぅ」
「頼むから折れてくれよ」
そうとう、切羽詰まった顔をしている自覚がスネークにはある。
言葉通り、スネークはこの恋人を溺愛している。まさにお前に首ったけ。胸キュンに目がハートになるくらい、メロメロべた惚れのどうしようもないところまでたっぷりどっぷり、ハマってるのだ。その相手に、わけもわからずに会うのも見るのも触れるのも禁じられるのは、辛いに決まっている。その上、久々に会ってみれば離せ出てけ二度と来るな、会いたくなかった部屋に入るな、果ては同じ空気を吸うな、とまで言われてしまっては、スネークも退くに退けない。なにより納得がいかない。
ようやくむっつり黙りこんで動きも止めたスネークを、アイクはまだ酩酊を引きずったような目で見上げる。快楽で蕩けた頭をしているはずの今なら、本音を言ってくれやしないかとスネークは期待している。アイクは、少しの間を置いて、わずかに眉をしかめた。この顔はそうとう参ってるな、と表情を読んで、大人しくアイクの言葉を待つ。大儀そうに口を開いたアイクの声は、当然だが掠れていた。
「・・・あんたのこと、俺も、好きだ、大好きだ、嫌いになんか、なってない。愛してるの意味もわかる。俺も多分ぞっこん、ってやつだ。そんなことも、わからないあんたは、馬鹿だ、大馬鹿だ」
「っだったらなんでお前は!」
「だからだろうが・・・!」
「あァ!?」
そりゃどういう意味だ、と問い詰める前に、アイクがくしゃりと顔を歪めた。視線が懇願を湛えている。だがそれは、いい加減許してほしいとか、イかせてほしいとか、そんなことを訴えていたわけじゃない。
「頼むから・・・・・出てって、くれ・・・」
「・・・・・・・・・・」
結局それか、と会話の堂々巡りにどっと疲れが湧いてきた。要領を得ない不愉快さに苛立ちは拭い切れない。スネークはまた舌打ちをして、アイクに収まっていた自身を抜いた。今の会話と疲れでソコはだらんと萎えている。適当にシーツで拭って、スネークはさっさと身を整えた。未だ拘束されて局部だけを晒した格好でいるアイクを見下ろして、寝台を降りる。来たときとは正反対に足音荒くドアへ向かう。アイクの拘束も衣服もそのままだ。趣味は悪いが、苛立ちついでの意趣返しのつもりだった。アイクがそこで何か喚いたなら、振り向いて鼻で笑ってやろうと思っていたのに、スネークが部屋から出るまで奴は一言もしゃべらなかった。ぼんやりした視線を背中に感じながら、乱暴にドアを閉める。大きく音が響いた。深夜の時間帯に迷惑だったか、とかそんな細かいことは頭にない。こんなに強い苛立ちを感じるのはそうとうご無沙汰な気がする。
ふと、最後にアイクが見せた、弱りに弱りきっていっそ本気で泣き出してしまいそうな顔が浮かぶ。本気で参っていた顔だった。だがそんなこと、知ったことか。
相変わらず足音荒く、スネークは自室へ帰って行く。こんなときはさっさと寝るに限る。



なに一つ状況がわからなくてスネークは混乱していた。
だがそれと同じくらいかそれ以上に、アイクも混乱していたことを、スネークは知らない。

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