要するに、さみしいのです。
不機嫌、というより、ふて腐れている。
マルスの顔はまさにそんな感じだった。
視線の先をたどって、メタナイトは、ああ、と得心する。
「最近のあれはよく笑うようになったな」
「・・・・・誰かさんのおかげだろうね」
彼らが見ているのは、楽しそうに談笑しているスネークとアイク。見るからに仲睦ましい。
同じ食堂にありながら、少し離れたところに座る彼らは二人の世界に入っているようで、マルスらに気付く気配もない。
少し前までは(アイクがスネークに熱を上げる、その前までは)、マルスとメタナイトとアイクと、三人で飯を食うのが当たり前だったのに。
今はどうだ、アイクときたらスネークにべったりだ。
マルスはきっとそこにふて腐れている。
視線の的になっている二人は、あくまでも自分たちの世界に浸っている。
スネークの言葉に年相応に笑うアイクに、メタナイトはほお、と声を上げた。案外気の利いたことを言うあの男なら、アイクを笑わせることくらい造作もないのだろう。感心だ。
「見せ付けてくれちゃってさぁ・・・」
「そうふて腐れるな、マルス」
「アイクはね、僕たちといるときはあそこまで無邪気に笑わなかったんだ。悔しいな」
軽く肩をすくめたマルスは、あ、と声を上げた。
なんだ、とメタナイトが視線をあの二人に返せば、スネークがアイクの肉を一切れ奪って、その口に含んでいて、メタナイトはまたほお、と声を上げた。戯れのつもりだろうが、アイクの肉をちょろまかすとは勇気がある。感心だ。
案の定、派手に音をたてて立ち上がったアイクに(立ち上がる際に脛でも蹴ったのか、スネークが声にならない悲鳴を上げた)、容赦ない正拳突きを喰らっていた。
のけぞり倒れるスネークがまた盛大に音をたてて、賑々しいバカップルだと呆れる。
「いちゃいちゃしてくれっちゃってさぁ・・・」
「少々バイオレンスがすぎるがな」
食堂中の視線がはた迷惑な二人に集まるなか、アイクは気絶したらしいスネークをずるずる引き摺って、食堂を出て行った。
飯を中断してでもスネークを取ったのは、そこに愛があるからなのか。
マルスは、二人をずっと目で追っている。ふて腐れた顔は治らない。それを見ながら、メタナイトは聞いた。
「子離れが寂しいか」
「・・・・・」
マルスのむくれ顔は、嫉妬というより、手のかかる子供が離れていった複雑な寂しさに近い。
言い当てられて、マルスはなんともいえない顔をして項垂れると、テーブルに頭を預けて、嘆く。
「寂しいよぅメタナイト〜・・・」
「よしよし」
なんだかんだでメタナイトも子離れの寂しさに似たものを感じているから、マルスの頭を撫でてやる。
とりあえず、片付けられなかった食器を下げてやろう。と思ってしまっているくらいには、メタナイトもアイクに甘いのだ。
子離れからは、まだ遠い。
慣れてきましたよ。
しまった。
スネークは動きを止めた。訝しげに見上げてくるアイクはこの際無視だ。
事態は深刻。
スネークは迂闊だった。
ローションが、ない。
ボトルの中身はすでに空。それすなわち、例の媚薬様の恩恵が受けられないということだ。
しっかりアイクを押し倒しておいて、後戻りも出来そうにない。道は一つ。進むしかない。
抵抗なく下に納まるアイクの怪訝な視線を無視して、口付ける。
焦りを隠したそれは、いつになくお粗末なものだった。
*
「今日は、アレ、ないんだな」
「・・・・・・・・・・アレ?」
アイクの言いたいことが、スネークにはよくわかる。わかるが、しかたない、そらっとぼける。
「いつもの、気持ち悪いやつだ。ローなんとか」
「気持ちいい、だろ。まあ・・・・・、そろそろお前も慣れてきたからな」
なにせローションのボトルを使い切ったほどには、回数を重ねてきたのだ。慣れないものも慣れる、はず。
慣れていてもらわなければスネークとしては困るのだ。
アイクはそんなスネークの底意は知らない。ただ、スネークを受け入れるソコに、いつもと違ってぬめりの足りない指が添えられたのに、眉をしかめる。押し入ろうとする感触にも、違和感アリアリだ。
いつもなら滑るように入ってくる指が、やたらと苦しい。いつも以上の異物感と、引き攣るような痛み。スネークの指はおざなりに唾液を纏わせているが、唾液程度じゃいつものぬめりには遠く及ばない。
思わず息をつめて、痛みをこらえる。
「・・・辛いか?」
「ぅ・・・ハッ、」
答えずに眉をしかめるアイクに、スネークは不安になる。ローションがないと、やはり、無理なのか。
それでも指を動かして、二本に増やしてみたり、中をほぐすように指を蠢かしてみたり、覚えてしまったイイところを突いてみたりしても、アイクは眉をしかめるばかりだ。
時折腰をビクリと揺らしたり、「ぅあ・・・」と声をもらすものの、媚薬を使ったときの乱れようには遠く及ばない。反応の薄さにスネークは焦る。「イイか?」なんて、怖くて聞けそうもない。
ただ、アイクの反応がどれだけ微妙でも、スネークの下肢はもう張り詰めてしまっている。
顔を苦痛に歪ませているアイクに欲情したなんて言えないが。
「入れるぞ」
告げて、自身の先端を押し当てれば、アイクは少しだけ眸を揺らして、渋々というように(アイク自身にそのつもりはないが、スネークにはそう見えた)頷いた。
アイクの腰を抑えながら、ゆっくりと腰を進めていく。
「ぐ、ゥ・・・・・ッ!」
「っ・・・キツいな。アイク、少し、緩めろ・・・!」
「無理、いう、なァッ・・・!!」
アイクは今までの比にならないほどの痛みと圧迫感に全身を引き攣らせ、スネークは想定外すぎるキツさと締められる痛みに歯を食いしばった。指と唾液だけの粗末な慣らしじゃ足りなかったか。
それでも、引くに引けずぎちぎち押し進める。先端の太い部分さえ飲み込ませれば、あとはどうとでもなる。と信じたい。
互いに苦痛に耐えながら、ぐぷっ、とやっと先端が通って、アイクがしゃくり上げるように小さく悲鳴を上げた。そこからは、ゆるゆると滞ることなく収めていく。
「・・・はい、った、な・・・」
「ハッ、ハ、ッァ、・・・!」
疲れたようにスネークが囁く。アイクは、軽いパニックを起こしていたのか、涙が止まらない様子で、呼吸も短く引き攣っている。
ハジメテのときよりもハジメテらしい状態だな、とスネークは苦笑した。
といっても、実際はそれなりに回数もこなしているから、アイクの秘所から血は出なかったけれど。
ローションがないとこうも違うのか、と思えばため息もつきたくなる。なにより、アイクの負担が目に見えて大きい。これからよがってくれるのか、と不安になりながら、スネークは伸び上がってアイクの髪を撫でた。
「動くぞ」
「ッ・・・、」
濡れそぼった青い目が哀れを誘ったが、構わず腰をゆるく動かした。
「ぐ・・・ッ!」
アイクの手がシーツを乱すのを見て、スネークはその手を自分の背に回させた。汗と涙とでぐしゃぐしゃになっているアイクの顔に少し罪悪感が沸くものの、止める気はさらさらない。
いつものように滑らかには動けないものの、奥へと押し込んで引き抜いて押し込んでと繰り返せば、内壁の調子がやっと馴染んできた。
「つらくないか・・・?」
腰を動かしながら、すぐそこにある耳朶に囁く。アイクはくすぐったそうに顔を背けたが、すぐにスネークへと向き直ると、口を開いた。
「痛い。苦しい。いつもと違う」
「・・・・・ああ、」
いつもの、媚薬に浮かされて蕩けた声音じゃないアイクの低音に、スネークは唸った。
やはり、媚薬がないと、コイツは感じないのか。
「やっぱりローションがないと、悦くないか?」
「・・・・・・・・・・」
アイクは、涙に濡れた目を瞬かせて、首をひねった。
「苦しい、けど。でも、今日はなんだか、あんたがすごい、深い」
「深い?」
「ん・・・、いつもより、あんたをよく感じる、って言うのか?わからん、うまくまとまらない。でも、」
背に回されたアイクの腕が、力を増してスネークを抱きしめる。
「痛いし、苦しいが・・・、悪くない。心地いい」
ローなんとかを使うよりずっといいかもしれない、とアイクは言う。
「俺も慣れてきたってことだろ、スネーク」
スネークと目を合わせて、どことなく嬉しそうに口元を綻ばせたアイクに、スネークは瞬く。
ややあって、クッと苦笑に近い笑みをこぼすと、グッと腰を突き上げた。
「ぅ、あッ・・・!?」
「そうだな、そろそろお前も慣れてきたからな」
イイところを掠めながら奥まで貫くと、「ンッ、」と息をつめる。その様子に、本当に慣れたんだな、とスネークは口の端を上げた。アイクの体はちゃんと感じている。媚薬入りのときほど過敏ではないが。
これくらいでちょうどいい。
ぐちゅっ、と控えめながらも卑猥な水音が漏れるようになったころには、アイクは苦痛ではなく快楽めいた表情になっていて、「くぁっ、あっ、あぁっ、」なんて律動にあわせるように声も上げている。
背に爪が立てられる痛みと、圧倒的な快楽と満足感を味わいながら、スネークは笑う。
もうあのローションを買い直す必要はなさそうだ。
雨の日
雨が降ると、アイクは必ず窓に張り付いてそれを見る。
昨日も雨で、今日も雨だったが、いずれもアイクはやはり窓にくっついていたし、スネークは部屋で二人っきりだというのにイチャつくこともできなくて不満だ。
今だって、アイクは飽きもせず窓の外を眺めている。
「お前はよっぽど雨が好きなんだな」
スネークはアイクの背に話しかけた。やっと、窓の外から目を離してアイクが振り向く。
「・・・別に、雨が好きなわけじゃない」
アイクは、不本意そうにかすかに眉をひそめた。
「嫌いなのか?」
「あんた、短絡すぎる」
アイクが呆れた。お前には言われたくないな、とスネークは思う。
「好きなわけじゃないが、だからって嫌いなわけでもない。だいたい、天気に好き嫌いがあってどうするんだ」
「俺は雨、嫌いじゃないがな」
「そうか。まあ、あんたはそれでいいんじゃないか」
アイクは投げやりに言って、また窓へ向き直った。スネークはそれが不満だ。せっかく話の糸口を見つけても、アイクはすぐにそれを放り捨てて、雨へ意識を戻してしまう。
雨は嫌いじゃないがアイクの興味をもっていく雨は気に食わない、・・・なんて考えは、雨に嫉妬しているようで馬鹿馬鹿しいから思わないけれど。
黙ってしまえば、あとはまたざあざあ雨音だけになる。
味気ないが、下手にアイクに絡めば機嫌を損ねるのはわかっているから、スネークは黙って、アイクの隣で雨を見る。
思いのほか、退屈ではなかった。
*
「雨には、いい思い出がないんだ」
アイクが、ぽつりと呟いた。ほとんど独白に近いそれに聞き返すでもなく、スネークは横目でアイクを見ただけだ。
話を続けるかと思ったが、アイクは雨を見るばかりで、そのつもりはなさそうだ。機を逃した。話すに話せなくて、スネークも黙って雨を見続ける。
雨はやむ気配もない。ざあざあ煩わしくない程度に音を立てている。
この世界の創造主であるマスターハンドは、フィギュアたちにリアリティを与えているのかもしれない。じゃなかったら雨なんて余計なもの、創造主は何のために降らすのか。
現にスネークは、雨を見てフィギュアである事実を忘れかけていた。
アイクの視線は窓を通り越して、雨が降り頻る暗闇を見据えているように見えたが、細められた青い双眸は何も映していないようにも見える。あるいは、どこかスネークの知らない、遠い何かを見ているのかもしれない。
そんな目をしたまま、アイクはだが、と続けた。続いていたのか。
「壊れるなら雨の日がいいな」
波の立たない平淡な声は、本気だとも冗談だとも読み取らせない。
とりあえずスネークは、引っかかったことを指摘する。
「死ぬ、じゃなくて壊れるなのか?」
言ってから、自分たちがフィギュアだとやっと思い出した。人形は死ぬのか?
「ああ、壊れるんだ」
確かに、壊れるのほうが、しっくりくるかもしれない。
しかしそうなると、先の言葉はどういう意味になるんだ。
「壊れる予定でもあるのか?」
「あるわけないだろ」
眉をひそめたアイクは、何を言っているんだと目で呆れている。壊れるならと持ち出したのは自分のくせに、とスネークは思ったが、口には出さない。かわりに手を伸ばしてアイクの顎を持ち上げて、視線を合わせる。あまり続けたい類の話題ではなかったから。
「俺が壊してやろうか?」
もちろん、性的な意味で。
ずいぶんこの方面に鋭くなってきたアイクは、スネークの言葉の意味を悟ったらしい。ますます顔を呆れさせる。
「あんた、本当にそればっかりだな」
「お前が雨ばかり見ているからだ」
引き寄せて口付ければ、慣れたもので、アイクもそれに応えてくる。
十分に享楽を味わったところで口を離すと、唾液が糸をひく。アイクの顔には熱が宿っていた。
腰掛けていた寝台に、寝かせるように押し倒すと、抵抗なくアイクの体が倒れる。
おとなしい様子に満足して、スネークはアイクの服を剥ぎながら、もう一度口付けようと顔を近づけた。
その瞬間に、アイクが何かを呟いたのを、スネークはうまく聞き取ることが出来なかった。雨音がさっきよりも大きくなっていたせいもある。それでも、かろうじて。
あんたになら、壊されてもいいかもな。
そんな風に聞こえたように思うのは、若干、スネークの願望も入っていたのかもしれない。