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スネークと話してから気付いたのは、思いのほか自分と彼では気が合うことだった。
それを知ってからアイクは、ついつい、スネークを見ると近づいてしまうし、話に盛り上がってしまう。大人の余裕をもったスネークとは話していて楽しかったし、なにより、一緒にいるとアイク自身の心が落ち着いた。
つまりアイクはスネークを気に入ったわけだが、それを気に食わなく思ったのは、もちろんピットだ。
当然だ、自分の恋人が、他の男と親しくしているなんて。
(許せるわけないでしょ?)
そうだとも、許せるわけがない。
しれっとした顔でアイクと話をするスネークにも苛々するが、それよりピットはアイクに苛々した。
(なんでボクといるときより楽しそうな顔するわけ?)
(アイクはボクの恋人でしょ?)
(わかってないの?)
苛々する。
あんまりに苛々するから、笑顔を繕うことが出来ない。厄介な。
アイクには自覚が足りない。ピットの恋人だという自覚が、圧倒的に足りない。
だからボクがこうして苛立っていても気付かないんだ、ピットは思う。
(気付かせなきゃ。)
(自覚させなきゃ。)
(どうすれば?)
考えたところで、ピットは今もまた飽きずに自分を囲んでいる人の輪を見る。見回して、にっこり、笑った。思いついた。
周りがピットの笑顔に沸いたところで、ピットは歩く。また今日も懲りずに壁際で話しているアイクとスネークのもとへ。
ピットの向かう先を察して、周りが, 『またか・・・』といった嫉妬めいた感情を渦巻かせたのが心地よかった。
いつにない笑顔で、歩み寄ったアイクの手をとり、ピットは。

「みなさーん」

声を張り上げ。

「ボクたち、」

唐突に。

「付き合ってますv」

カミングアウトした。



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関係を公表するのだけは勘弁してくれ、といつぞやアイクは言ったような気がする。
だってきっと、ひどく疲れることになると、想像はついていたから。

けれど現実は、アイクの予想以上だった。
ピットくんファンクラブから浴びせられる殺意のせいで気が休まることはないし、人前でのスキンシップが過多になったピットに抱きつかれれば、今日もお熱いのね、とか、見せ付けてくれるなよ、なんてからかい目的の言葉を浴びせられる。
しかもその際、この色男! なんて理不尽にドつくかれてイラッとくるし、ピットが、「今日は調子が悪いんです・・・」なんてしおらしく言うと、非難の目と言葉が一斉に飛んでくる。いわく、もっとピットの体を労わってやれだとか、付き合いたてで張り切ってるのはわかるけどだとか、お盛んだなだとか、ピットくんはお前みたいな野獣とは違って繊細なんだから、とか、言われるのはすべて身に覚えのないことばかり。
何の話だ・・・! とひそやかに苛立ちを鬱積しつつ、今さら言い返すのも億劫で、アイクはひたすら、いっそ健気がすぎるほどに黙って耐えた。
彼らは知らないのだ、夜の行為の負担が大きいのはむしろアイクの側であることを。
それだっていい加減慣れたとはいえ、腰は痛むし喉も痛いし寝不足だしで、最悪だ。そんなだるい体にからかい目的の言葉とともに肩を思い切り叩かれれば、思わず掴み掛かって、あんたになにがわかるんだ、とでも叫んでやりたくもなる。

ピットのカミングアウトから数日、アイクの精神はまさに限界へと刻々と追い詰められていたのだ。
ピットは、それに気付かない。
ただ、日に日に憔悴していくアイクに、首を傾げるだけ。

人に愛されることに慣れすぎた幼い天使は、恋人が何に苦しんでいるのか、理解できないのだ。



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「つらいのか?」
声をかけられたのに、最初は気付かなかった。それがスネークであったのも。
まずそのことに驚いて、次に、言われた言葉に驚いた。
つらいのか、なんて、心配してるみたいだ。
「心配してるんだ」
「・・・スネーク」
「アイク。お前、本当に大丈夫か?」
わかりやすく顔をしかめたスネークは、アイクの腕を引っ張って、歩く。
ああ、こんなところをピットに見られたらただじゃすまないだろうな。
これからは一人で歩かせてもらえなくなるかもしれない。それが恋人のあり方らしいから、アイクはピットの言うことを聞かなきゃならない。
けれどアイクはスネークの手を振りほどくことは出来なかった。久々に誰かと会話らしい会話をしたような気がして嬉しかったし、スネークが今もまだ自分のことを構ってくれるのが嬉しかったのもある。
カミングアウトしてから数日、あれから今まで、スネークとは話すことはおろか会う機会さえなかった。傍にいたピットが極端にスネークを嫌ったせいが一番大きいが、もしかしたらスネークに軽蔑されたのかと思っていたのだ、アイクは。
気がつけば、スネークの自室へ連れ込まれていて、ベッドに座らされ、肩に手を置かれていた。けれど決していやらしい雰囲気じゃない。どちらかというと、刺々しい。
「・・・・・アイク。何があった」
「何が? 何だそれは?」
「ああ、いや、言わなくてもだいたい原因はわかってるんだ。どうせあの天使の我侭のせいだろうし、」
苛々したような口調だ。どうしてスネークが怒っているのか、アイクにはわからない。
スネーク、と名を呼ぶと、彼はやはり苛立った声音でなんだと答えた。
なにか言わなければ。なにを。
「・・・あんたに嫌われたと思ってた」
「俺が? お前を?」
結局、気の利いた言葉は出てこなくて、ぼんやり考えていたことが口をつく。
スネークは、なんともいえない顔をした。
「どうして俺がお前を嫌わなきゃならない?」
「あれから、誰もが俺を嫌う」
あれ。
抽象的な表現でも、スネークにはわかったらしい。肩に置かれた手が、強張った。
「どういうことだ、」
「ピットはみんなに好かれている。俺は、・・・俺は、みんなからピットを奪った、から、」
あからさまな敵意を向けられるし、空気が刺々しい。ピットがくっついてくると殺気さえ感じる。
それに、勝手に友人だと思っていた相手、例えばマルスなんかは視線を合わせてくれなくなったし、リンクでさえ気まずそうななんともいえない顔をして、アイクを避けているような気がする。多分、気のせいじゃない。
事実上、アイクはピット以外の者たちから孤立してしまったのだ。
「あんたが、・・・あんたは俺を嫌ってなくて、よかった。これ以上は、さすがに寂しい」
呟いて、ひっそりと自嘲が浮かんだ。
らしくもなく弱音を吐いて、らしくもない態度を見せたアイクは、どうしようもなく頼りなく見える。ようするに辛いんだな、と思ったし、スネークの苛立ちは頂点に達しつつある。
もうダメだ、さすがに耐え切れない。哀れなアイク。可哀想に。普段がふてぶてしい仏頂面なだけに、こんな泣きそうな弱った顔を見せられるとスネークの男心がくすぐられる。守ってやりたい、だとか思わせるじゃないか。
「っ・・・・・、スネーク?」
ぐっと引っ張られて、一瞬のうちにアイクはスネークの腕の中にいた。
最初、抱きしめられていると気付かなくて呆然としていたが、スネークの心音が聞こえると、とたんに実感がわいた。
胸板に頭を埋めて思ったのは、安堵や心地よさよりも、恐怖だった。
だから、こんなところをピットに見られてみろ、どうなることか・・・、
「考えるな」
「・・・・・、」
頭を、大きな手で押さえつけられる。反射的に、思考が止まる。
「アイク」
「な、に、」
「もうあいつと付き合うのはやめろ」
「あいつ?」
「・・・ピットだ」
「どうして、」
「お前、今、幸せか?」
答えられない。
「お前は、本当に、あの天使が好きなのか?」
やめてくれ。
「聞け! 俺は、そんな辛そうな顔をしてまで付き合うほど、ピットのことが好きなのかと聞いてるんだッ!」
「やめろッ!」
「わかってるんだろうが、本当は。自分は奴のことが好きでもなくて、流されるままに傷つけられて。馬鹿みたいだなァ、アイク」
「言うな、言うな、言うな、俺は、俺はあいつを、・・・!!」
「言えるのか?」
「・・・あいしてる・・・・・、」
「本当に?」
「・・・・・本当、だ・・・っ、」
「・・・・・・・・・・馬鹿だなぁ、お前は。本当に」
スネークの声は、哀れむようにも聞こえたし、軽蔑しているようにも聞こえた。



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「今日はどこに行ってたの?」
「・・・・・、」
「ねえ、アイク」
自室に押し入ってきたピットを拒む権利はアイクにはない、らしい。
さっそく寝台に押し倒されて、今日の行動についてしつこく尋ねられる。慣れたものだ、適当にあしらえばいいのだが、アイクにそんなつもりはない。
アイクは表情なく、ピットを見上げる。
口を開くのも億劫だったが、ピットは追及をやめないし、それを煩わしいと多少なりとも思ったから、アイクはぽそと呟いた。
「スネークの部屋だ」
「・・・・・へえ」
予想通り、ピットの声質が一段下がった。
不穏な空気だって予想通りだし、この先どうなるのかだって。
「ボク、言ったよね? あのオジサンには近づかないで、って」
「向こうが近づいてきたんだ」
「でも、それに付いて部屋まで行ったのはアイクでしょ? なんで?」
「知るか」
「なにそれ」
あからさまに不機嫌な顔をして、ピットがアイクの頬を打つ。大きく音が鳴ったから、きっと、赤く腫れることだろう。
「生意気だね、アイク。スネークのオジサンになにか吹き込まれた?」
「あんたには関係ない」
「っ・・・、ムカつくっ!」
もう一発。痛みはあるし熱だって感じるが、脳は麻痺したように鈍い。
表情を変えないアイクに、ピットの苛立ちは募っていく。可愛らしい顔をくしゃりと歪めて、むくれてみせる。それでもアイクは動かない。
「関係あるんだって。ボクはアイクの恋人なんだから、全部共有しないと」
「あんたにそこまで言う必要はないだろ?」
「・・・・・うるさいなぁ・・・!」
口を強く押さえつけられる。煩わしい口は塞ぐべきと見たのだろう、短絡的だな、とアイクは思う。
「キミは、ボクに口答えしちゃいけないの。わからない? ボクの言われたとおりにすること、そしてボクを喜ばせること、それがアイクの役目でしょ?」
「・・・・・・・・・・、」
ここ最近、ピットはより我侭になったと思う。
アイクを私物として見ているとしか思えない言動にだって、アイクは追い詰められてきたのだから。
「ねえ、アイクは浮気したいの?」
違う。
「なにかあればスネークのオジサンのところに行くじゃない。本当はあの人のほうが好きなんでしょ?」
違う。
「でも残念だね、ボクはアイクを離す気はないから。オジサンに助けてって言ったって、無駄だから」
違う。
「今さら他の奴になんか渡さないし」
違う。
「好きだよ、アイク。愛してる」
・・・・・俺もだ。ピット。
「・・・・・むぐ、」
けれど、アイクの口は塞がれていて、伝えようとした言葉が伝えられない。手を離してくれ、と視線で訴えても、ピットは冷えた目で見下ろすばかりで。
ああ、と思う。
俺は、信じられてないのだ、ピットに。
うすうすわかっちゃいたが、実際に信用されていないことを突きつけられて、苦しくなる。
アイクは、ピットに縋ることも出来ない。唯一傍にいる相手なのに。
愛してる、あいしてるのに?

お前は、本当に、あの天使が好きなのか?
多分俺はきっとピットを恐らく愛してる。

ピットのことが、好きなのか?
好きなはずなんだ。

お前は、今、幸せか?
・・・・・・・・・・・・・わからない。

苦しくて苦しくてしょうがない。周りに味方はいないし、唯一の相手には信用されず、寂しさと落胆と苛立ちと疲労とが胸の中でごっちゃになる。とても、気持ち悪い。
誰かを愛することも愛されたことも経験のないアイクは、盲目的にピットを信じるしかないのに、恋人というのは少し反抗しただけで詰られ、自分の行動を制限されることなのだろうか。わからないが、少なくともアイクにとってそれは幸せではない。

ピットの手が服を剥ぎ取ろうとするのを感じて、アイクは目を閉じた。
アイクはとても、疲れきっているのだ。



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部屋から出るのさえ億劫。だったので、アイクは体調不良を理由に引きこもっていた。
とはいえ、あながち体調不良は嘘じゃない。いろいろありすぎて疲れてるし苦しい。じっくり焦らすように首を絞められているようだ。
過呼吸にもなりそうになったし、ひゅーひゅー喘いだ自分を自覚したころには、アイクは引きこもりを決意した。
ピットでさえ閉め出して。

ドアがドンドン叩かれる。
開けてと訴える声もする。ピットの声。
「あんたに会いたくないからこうしてるのに、開けるわけがないだろ」
こんな悪態は、聞かれないようにボソッと呟くだけ。
聞かれたら多分ドアは蹴破られて拉(ひしゃ)げさせられるだろうし、また恋人の権限とやらでいろいろ言われて、今度こそ解放されないに違いない。
(そんなのはもう嫌なんだ。疲れるし、苛々する)
今はまだそれをされていないものの、いつピットの忍耐が切れるかわからない。
ガンッ、とひと際大きくドアが音を立てて、多分蹴ったんだな、と思ったし、周りにきっと他人がいないんだ、とも思った。
少し怯んだ自分に、苦笑する。
「俺たちは恋人なんだよな?」
恋人の正しいあり方なんてわからないけど、アイクはピットとの付き合いが、普通より少しだけ歪なことは感づいているつもりだ。これがピットなりのお付き合いの仕方なのかもしれないが。でもそうならこれ以上は無理かもしれない。
ピットの所業を思い出す。ピットの言葉を思い出す。ピットとのやり取りを思い出す。
どれも愛着はあるし好きだなとは思うけれど、でも今アイクは、
「幸せじゃない」
ことを、ようやっと自覚した。
「俺は気付くのが遅すぎたか、スネーク?」
多分、遅すぎた。
でも、まだ手遅れじゃない。
問題は、どう切り出すかがポイント。

別れ話なんて、許してくれるのか、あの天使が。
ドアの一部分が変形しているのを見て、どっと憂鬱が押し寄せた。

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