厄介な相手に惚れてしまった。
なにがどう厄介かって、まず第一にヤツは男だ。それもどう贔屓目に見ても女には見えない上に、仏頂面の似合う男前。
いや、それはもう開き直っているからいい。その上で厄介なのがヤツがどうしようもない天然で鈍感であること。それに尽きる。
まさに今、スネークが悩んでいることはそれなのだ。
遠回りなアピール(まず意味が通じない、というか気付かない)はもちろん、直球に「好きだ」と言っても(俺も好きだぞ?ってお前、意味をわかってもいないくせに!)通じない。無知という名のガードの固さに、何度挫けたことか。
ついにはオタコンを無線で呼び出して、恋愛相談なんてものまでしてしまった。よりにもよってオタコンだ。この切羽詰りっぷりを感じてほしい。
そうして今日に至るわけだが、いまだにスネークの熱い気持ちは相手に届いていない。
どうすれば。
「どうすればいいと思う」
「すまん、色恋沙汰は苦手でな」
スネークの隣で、アイクは組んだ腕をそのままに、コトンと首をかしげた。
思うにあんたは相談相手を間違えてるな、なんて憎らしいことを言ってくるヤツだが、今のスネークのこの悩みを解決できるのは、彼しかいないのだ。
「お前だったら、」
「ん?」
「どうやって相手に気持ちを伝える?」
「・・・・・・・・・・、」
アイクは黙り込んだ。
俯いて考えているように見せかけてはいるが、きっと何も考えちゃいないのだろう。でなければそんな、
「・・・肉より愛してる、とか言われたら、俺なら参っちゃうな」
なんて、お前、それはない。
照れたように笑うアイクだが、なにに照れたんだかは微妙なところだ。肉か?肉のくだりか?
そんな告白、どうにも格好がつかないな、とは思うが、スネークはこれを機と思うしかなかった。
なぜならスネークが好きだというその相手は、
「アイク」
「なんだ?」
「肉よりお前を愛してるぞ」
まさにアイクその人であったので。
スネークの“愛の告白”に、アイクの目が見開かれた。
「どんな肉よりもお前が好きだ」
きょとんとした反応がやけに色薄いものだから、ついでとばかりに付け加える。
「肉だけじゃない、誰よりも何よりも、お前が好きだ、愛してる」
ご所望の殺し文句だ、さすがに鈍くて鈍くてしょうがないコイツでも、いい加減俺の気持ちに気付くだろう。
だがアイクは、見開いた青い目をしばたいて、少し考えるように斜め上に視線をずらす。今度は真剣に何かを考えている顔だ。しかし、どうにも反応が薄くないか?赤面の一つでも見せてみれば可愛げもあるだろうに。
「・・・なぁ、スネーク」
「なんだ」
「俺は女じゃないぞ?」
「・・・・・・・・・・」
訝しげに眉をしかめているアイクの顔に冗談の色はない。不吉だ。
まさかコイツ、この上まだボケる気か?
「知っている」
「なら・・・、まさかあんたッ、女だったってのか!!?」
「ちょっと待て・・・!」
どうにも話が飛躍しすぎてないだろうか。アイクのこの上なく不躾な視線が全身を眺めるのを感じながら、まどろっこしさに苛々する。よもやわざとやっているんじゃないだろうか。スネークが疑うのも無理はない。だがここで逃げを許したらスネークは今度こそ八方塞になってしまう。
ガッ、とアイクの両肩に手を掛けて、真正面から向き直る。
気迫に圧されたのか、アイクの顔が僅かに緊張したが、それだけだった。
「いいか、俺は男でお前も男だ。その上でお前が好きだ。わかったか、このやろう。愛してるんだぞ、聞いてるのか」
「な、ん・・・・・、スネーク・・・?」
やけっぱちだ。
固まっているアイクをきつく抱きしめて、これ以上誤魔化しがきかないように、囁き続ける。
「好きだ」
「っ・・・・・」
「好きだ」
「・・・・・ちょ、」
「愛してる」
「っと、」
「肉よりも」
「待て、」
「愛してる愛してる愛してる」
「って、まっ、」
「愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる」
「マッ!!!」
「ダッ!!?」
ゴスッ、といい音がしてスネークは頭を仰け反らせた。実にイイ頭突きだ、なんて褒められるほど、スネークは寛容ではなかった。
なにするんだこの石頭、とでも言ってやろうと思って口を開いたところで、ビッと眼前に手のひらが突き出されて、スネークは思わず口をつぐんだ。
制止したかったのだろう。アイクは手をスネークの顔の前に掲げたまま、俯いて言った。
「待て。待て待て待て、」
「アイク?」
「待て待て待て待て待て待て、」
「おい?」
同じ単語を繰り返す様が異様だったものだから、スネークは手を伸ばして無理やりアイクの顔を上げさせた。そして、驚いた。
真っ赤だったのだ。
「・・・・・・・・・・アイク」
「だから、待てと、言った、だろうが・・・っ」
恨めしそうな声音に、スネークはやっと理解した。
本気で照れているのか、アイクが。本気で照れているのだ、あのアイクが!
滅多に見れないというか見たことのないというか見れようハズがないとまで思っていた大変な照れように、これは、とスネークも思う。
よっぽど恥ずかしかったのだろう、アイクは真っ赤な顔のままで大きく深呼吸して、それもまた普段は聞けないだろうか細い声で呟いた。
「・・・・・俺は、」
途方にくれたような顔をして、続ける。
「好きとか、そういうのは、よく、わからない」
言われた内容はまさに初心(うぶ)そのもので、どうせそんなことだろうとは思ってた、とは言わずに、スネークはとりあえずありきたりのことでも言っておく。
「これからわかればいい。俺が教えてやる」
「・・・・・じゃあ、俺とあんたは、好きあうわけだから、」
「恋人ってことになるな」
コイビト、と反芻して、アイクはまたぐぐっと俯いた。髪の間から覗く耳が真っ赤になっているから、きっと慣れない響きに堪らなくなったのだろう。しばらく沈黙して、俯いたまま彼は突然スネークの手をとって、言った。
「・・・なんというか、・・・よろしく、頼む?」
握手でもするかのように手を上下に揺らしている。
堪らないのはこっちだこの天然め。
ああこういうところが堪らなく好きだなぁと思いながら、スネークはクツクツ笑いながら手を握り返した。
「ああ、よろしくお願いします、恋人殿?」
「・・・・・・・・むぅ」
小さく唸る声を聞いて、耐え切れずにスネークは噴き出した。