| 王子とシャイク1 |
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その顔を見たとき受けた印象っていうのが、面の皮が厚そうだなぁ、ってのが第一。 ふてぶてしい仏頂面と、淡白な態度に、勝手に抱いた印象だったけれども、まあ外れちゃいないだろうと思っていた。 その印象が、ちょっとだけ変わったのがつい先日。 僕は気付いてしまったのだ。 たとえば、だ。 彼は僕と決して目を合わせようとはしないし、二人きりになるのも嫌みたいだし。 僕が話しかけるとビク、と大げさに体をはねさせて、困ったようにうつむくし。 それでいて返るのは生返事か沈黙、短い返答だけ。 いっそ嫌われているんじゃないかとこの僕が本気で悩んだくらいにはそっけなさすぎる態度だったのだ。 けれどよくよく見てみれば、彼は別に僕のことを嫌いなわけではないらしい。 だって僕を見るその目は、いつだって熱っぽさを帯びて潤んでいるのだから。 つまりこれは、嫌われているんじゃなくって、むしろ。 友好を通り越した意味で好かれているんじゃないか、と。 まいったね、いくら僕が同性も見惚れるほど美しいとしても、僕だって男、同じ野郎に惚れられたってその気持ちに答えることなんてできないんだ。 とは思っても、おそらく僕以外の奴らにはふてぶてしい態度で通っているであろう彼が、唯一僕にだけ特別な視線を向けているなんて考えると気分はいい。 恋仲は無理でも、お友達なら。なんて偏見もなく思えるくらいには僕は優しいから、なるべく彼に話しかけてあげるようにしている・・・わけなんだけど。 どうにもこうにも、彼は意地でも真っ当な会話をする気はないらしい。 「やあ、アイク」 「っ、ああ、マルス・・・王子」 「ちょっと話でもどうかn 「す、まん、今は、そぬっ、無理だッ!」 「え、ちょ、」 上のやり取りを繰り返すこと幾十回。すでに僕と彼・・・アイクとの定例パターンになっている感がある。 いくら僕と話すのが恥ずかしいからって、流石にそこまで露骨に避けられると気分が悪い。 仕舞いにはなんだか会うのでさえも避けられているような気がする。たぶん気のせいなんかじゃない、きっと。 僕もいい加減意地になってきて、マスターハンドとかいう得体の知れない絶対主にアイクとのタイマンを頼み込んでみたりした。 果たしてその要求はすぐに受け入れられ、僕はかなり強引なフタリキリを作ったわけだけど。 どうも僕は失念していたらしい。 アイクは、普通に強すぎた。 普段僕の前で見せるテンパった態度から忘れていたが、彼は剛腕の持ち主で、その剣筋は確かなモノ。 一撃一撃が重く、タイマンなんて鬼か夜叉かが迫ってくるかのようだ。 そのくせ顔だけはいつもの焦ったような顔で、僕を吹き飛ばす気でかかってくるくせに、剣を振り下ろすときにはスイマセンなんて謝りやがる。 景気よく宙に吹き飛ばされる中で、アイクが小声で謝る声ばかり聞いていた。 結局、あとに残ったのはボロボロになった僕だけで、目的だったアイクとの会話なんて、しっかり勝利をおさめた彼が最後まで言いやがった「スイマセン」に返した「いや、・・・・・うん」のみ。 笑いたきゃ笑えよ!と自棄になってピカチュウさんに言ってみたら、鼻で笑われた上に尻尾で叩かれた。なにもかもが悲惨だ。 だいたい、だ。 なんでこの僕がアイクなんかに振り回されて悲惨な目に会わなきゃならないんだ? 僕は別にアイクのことが好きなわけじゃなくて、一種のボランティア精神でお友達になってやろうなんて寛大に接しようと思っただけなのだ。 意地になりすぎて、そこのところを失念気味だったらしい。 実は必要以上にアイクの存在を気にしていることには気づかないフリをして、僕はアイクに近づくことをやめた。 * 偉大なる先人が残した言葉に、押してダメなら引いてみろ、という言葉がある。 どうやら僕は、図らずしもそれを実行に移してしまっていたらしく、その上先人の言葉通り、ばっちり効果を現したらしい。 最近とみに感じるのだ。 彼の視線を。 誰のモノかもわからない視線を、彼のモノだと断言出来てしまうくらいには、僕はアイクの気配に慣れてしまっていた。 ああ、これはもう少しだと曖昧に思ったね。 僕はそうして意識していながらアイクから距離を取って、アイクはアイクで日に日に僕に視線を送る回数が増えていって。 「・・・・・・・・っマルしっゅ、王子!」 ついに意を決したのかアイクが僕の名前を呼んだとき(肝心の名前を噛んだらしいけど、まあアイクが僕と話すときに噛みっ噛みなのはもはや習慣みたいなものだから)、僕は心が満たされたのを感じた。 さあ、そのままの勢いでこの僕に告白すればいい。 そうすれば僕は、僕は・・・、あれ? (・・・そういえば、僕は彼を拒もうとしてたんだっけ?) そうだ、いくら美しくても僕は男で、アイクも男で、そんなの御免だと思ったんだった。 お友達としてなら、まあ、付き合わないこともないけど、と。 (なら、そう言えばいいじゃないか、なにを悩んでいるんだ僕は・・・、) 悩んでいる? 僕が? どうして? 「マルス、っの、俺は・・・・・、」 いつものように視線を斜め下に逸らしながら、顔を赤くしているアイクをぼんやり眺める。 「・・・俺は、実は、」 潤んだ目が僕をとらえる。 真っ向から目が合ったのは、初めてだ。ゾク、と背筋に痺れるような何かが走る。 ああ、どうやら僕は、気付かぬうちに。 (・・・・・もうずいぶん、ほだされてたみたいだ。) 苦笑して認めよう。根負けしたっていうのかな、まあ、しょうがないっていうか。 僕は生温い気持ちで、アイクの言葉の続きを待つ。 覚悟とともに受け入れてやろうじゃないか。 さあ。 「実は俺は、シャイ、なんだっ・・・」 「うん、僕も君が気になっt・・・・・、へ?」 は? 「えぇと、その、なんだって?」 「だから、俺はシャイなんだ」 「・・・・・・・・・うん?それで?」 「・・・この前、あんたと対戦してから、あんた俺を避けてただろ?」 あのスイマセンタイマンのことだろう。 僕は曖昧に笑って誤魔化す。 「あの対戦で、なにかあんたの気に障ることをしてたなら、その・・・、謝る」 しいて言うならあのスイマセンの多発が気に障ったかな、とは胸の内でだけ呟く。 僕が呆けたままでいると、アイクは言葉を続けた。 「・・・それで、その、だから、」 赤を通り越していっそ青くなりつつあるアイクの顔色に、今度こそ告白かと僕も構える。 だが、 「・・・とっ、とむ、もっだちにっ、なつっなってくりぇないか!!」 なんだって? 「・・・・・ちょ、っと落ち着いて、アイク。もう一度いい?」 「だから。っの、俺と、友達に、なって、くれ、ない、かっ。と」 友達って。 「君ってお付き合いはお友達から始めるタイプ?」 「?」 本気で首を傾げている様に、ため息だってつきたくなる。 とりあえず、 「・・・話を聞かせてもらえるかな」 癪だけれど、どうにも僕は現状に混乱してるようなので。 アイクは、相変わらず目を潤ませたまま、頷いた。 * すったもんだあった末、僕がわかったのは結局、アイクは極度の恥ずかしがり屋さんだということだ。 なんだそりゃ、なんて呆れかえるくらいには彼はシャイで、他人と向かい合って視線を合わせるのも困難らしい。 恥ずかしさのあまりテンパって、顔に熱が集中して、いっそ泣きそうにもなるんだとか。ギャップ萌を通り越して苦笑するしかない。 それでもって、僕と視線を合わせようとしなかったのも、真っ赤になってたのも、瞳が熱を帯びて潤んでいたのも、全部、まあそういうことらしい。 つまりだ。 僕がアイクの態度に勝手に勘違いして、勝手に一人で盛り上がっていただけで、アイク自身は僕のことを完全にイイお友達として見たいらしく。 僕はもう自分が情けないやらみっともないやら恥ずかしいやらで、どうにも決まりが悪くてムッスリした顔でとりあえずアイクの頬をつねっておいた。 だって悪いのは思わせぶりすぎる態度をとったアイクだ。誰だって勘違いするだろ、そりゃ。 なーんて僕が心の中で言い訳しても、それはアイクには届かないものだから、彼はつねられた頬の理不尽さに目を丸くしている。 僕は頭に手をあてて、ふぅ、とため息ついた。 「アイクって、もしかして友達いない?」 「・・・・・・・・・・」 ズビシと指摘してやれば、アイクはバツの悪そうな顔をして、そっぽを向いた。 まあまあ確かに、ただでさえ仏頂面なのに、コミュニケーションもシャイなせいでままならないとなると。 難儀、だなぁ・・・。 そんな中、僕だけがやたらと自分をかまってくれたものだから、初のお友達に、って、ねぇ。 まあ、 「別に、いいけどね・・・」 僕の色よい返事に感激したのかなんなのか。 バッと顔を上げたアイクが僕に抱き付こうとして、そのあんまりの勢いに僕が「グフッ」なんて唸って二人して地に倒れ込んだのもなんのその。 アイクはふてぶてしい顔なんてしておらず、おそらくこの世界で彼のこんな顔を見たのは僕が初めてだろうってくらい、 「っりがとう、マりゅすっ!」 嬉しそうな顔をして、笑っていたのだ。 最後の最後まで噛んだアイクに苦笑するでもなく、不吉にも心臓がドクンとひとつ高鳴ったのを、気のせいだ気のせいだと必死になって自分自身に言い聞かせていた。 |
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