5
なにもない時間なんかに、スネークの部屋で一緒に過ごすことも多くなった。
いつかの経験からか、アイクは人の多い場所を無意識に避けている。そんなアイクが不憫で、スネークも特に用がなければ積極的に自室にこもった。
二人だけの空間が心地よいのはアイクだけではない。
このときも、スネークとアイクはそろってベッドに並んで座っていた。
特になにをするでもない。スネークはぼんやり煙草を吸っていて、アイクは横で同じようにぼんやりしている。
しばらく続いた沈黙を破ったのは、アイクが向けた手のひらがきっかけだ。
「ん」
「んん?」
差し出された手に片眉を上げると、アイクはなぜわからんとでも言いたげに首を傾いだ。
そんな顔をされても以心伝心なわけでもないから、言葉に出してくれないと何も伝わらない。
スネークは気にせず煙草を燻らすが、ふう、と紫煙を吹いたところで思い当たった。
「これが欲しいのか?」
手にした煙草を持ち上げて見せる。
「さっきからそう言ってるだろ」
「言ってはないだろ」
パッケージへと手を伸ばすアイクから逃れる。指に挟んでいたものも、灰皿に押し付けた。
「子供が吸うもんじゃない」
「子供じゃない」
「未成年だろう?お前に煙草はまだ早いさ」
笑ってみれば、案の定、不満顔が返された。いくらアイクが精悍な顔をしているとはいえ、そんな顔をしてはまだまだ幼くて、そら見ろとからかいたくなってしまう。機嫌を損ねすぎてもいけないから口には出さないが。
「だいたい、いきなりどうしたってんだ」
今までアイクが特別煙草に興味を示したことはない。それどころか、煙に眉をしかめて顔を背けていたくらいだ。
まさか自分から吸いたいと言い出すなど、思ったこともない。
「だって」
なんでもないふうに、アイクは答える。
「あんたが、吸っているから」
スネークは思わず閉口した。どういう意味だ、と自問する。
俺が吸っているから?だから、自分も吸いたくなった?
その理由に行き当たって、すぐにまさかと自嘲する。
いや、でも、しかし。
ここ最近のアイクを思い出す。無意識のうちにスネークに懐く彼は今、スネークが吸っているからと、煙草に興味を示しているのだ。
黙り込んだまま、アイクに焦点を合わせる。
先ほどのやり取りがあったからか、ハッとするほどすぐ近くにアイクの顔があった。
至近距離で見詰め合う。スネークがじっと見遣ると、アイクは固まったまま見返してきた。
空気が変わったのを、互いになんとなく察知する。
両者とも、思考は停止していた。スネークが顔を傾けたのも、アイクが目を閉じたのも、どちらも本能が為したものだ。
唇が触れ合うのも、すぐのことだった。
肌を刺す髭の感触にアイクが震える。気にせず、スネークは姿勢を直して身を乗り出した。
「は…、ん、」
ようやく唇が離れて、アイクは空気を取り入れた。しかしすぐに、口が開いた隙を逃さず、スネークがまた口付ける。
後頭部を抑えて、今度は、深く。
「ん、ん…」
舌を絡めれば、アイクが鼻に掛かった喘ぎをもらす。たまらない。背筋がぞくっとする。強烈な興奮に、スネークは震えた。
おあつらえ向きに二人がいるのはベッドの上だ。上位をとっていたスネークが、少しずつ押してやるだけでアイクの体は簡単に倒れる。
スプリングがギシリと鳴ったのを合図に、スネークは顔を離す。
見下ろす先には、目を蕩かせ、頬を染めたアイク。
止めるつもりはなかった。流れは完全にそちらに向いているし、理性もGOサインを出している。でかい顔をする本能に従って、スネークはアイクの衣服に手を掛けながら、首筋に顔を埋めた。
「まて」
キスを拒まず、素直に押し倒されたアイクがまさか制止をかけるなど、スネークは思ってもみなかった。
押し返す腕に従ってまた見下ろすと、青の瞳が揺れていた。
「待ってくれ…スネーク」
繰り返される制止。あえかな声音に、困惑を嗅ぎ取る。
戸惑いの強いその様子に、堪らずスネークは口を開いた。
「俺は、お前が好きだ」
言い聞かせるように強く告げれば、アイクが息を呑む。
精悍な顔を頼りなく歪めて、頬に熱を増す様子に、スネークは確信する。アイクも、スネークを憎からず思っていることだろう。自信もある。アイクが想いを口にして返せば、スネークが躊躇する理由は何一つとしてなくなるのだ。
「……おれ、は……」
おぼつかない調子でアイクが唇を震わせる。
しかし、次が続かない。
焦れながら、スネークは辛抱強く待った。下手に詰め寄るのは得策ではない。
「…すまん、スネーク…」
「っ、アイク…!」
「今は、まだ。もう少し、時間をくれないか…?」
そんな風に乞われてしまっては、スネークも大人しく引き下がるしかなかった。