ざっくりした場面寄せ集めて成就まで持っていきたいシノアイ話。




シノンとアイク
1.ひとめぼれ〜蒼炎 前半頃〜


鋭く飛んできた何かは、ミストを捕らえていた男のちょうど眉間に突き刺さった。矢羽を見て初めて、それが矢であったことを悟る。
とっさに飛んできた方向へ目を向けたが、あるのは草木の茂みばかりで射手の姿は見えない。
が、奥のさらに奥ほどに、赤が翻った気がした。脳裏に、赤い長髪を結わえた男がよぎる。

アイクがシノンの弓技を見たのは、実はこれが初めてであった。

*

そうしたどうのこうのがあった末、ミストもヨファも怪我の一つもなく助かった。よかった。
こっぴどくしかられたが、結果的にはとてもよかった。
アイクはヨファと並んで遠くを見ながら、感慨深く頷いた。
「・・・いいな。」
「うん。シノンさんはすごくかっこいいんだよ」
自分が褒められたようにヨファは喜んでいる。アイクはうむ、と頷いた。
そう、弓を携えたシノンはとてもかっこよかった。
並んで膝を抱えながら、アイクとヨファは遠くで弓をいじっているらしいシノンの姿を眺め続ける。

そもそも、アイクはシノンが苦手だった。同じ空間にいても目を合わせようとしないし、合えばあったで嫌なものを見たように顔をしかめる。当然会話なんかは発生しないし、声を聞いたら悪態しか入らない。
アイクにはシノンの気に障ることをした記憶はないが、嫌われていることは流石に理解していた。鈍いとよくミストに言われるアイクだが、これみよがしに嫌われるのは素直に堪える。加えて苛立つ。
グレイルとの手合わせでぼろぼろになった姿を、鼻で笑われてみっともねえと吐き捨てられたときには、ついついシノンの矢を一本盗んでへし折ってしまったことさえある。若さゆえの反抗であった。

その頃アイクには、弓の良さがまるでわかっていなかった。
弓兵とは、敵から距離をとって、物陰に隠れてこそこそと矢を射るものだ。アイクの中のイメージはそんなもんだった。
その様が悪いとはいわないが、魅力を感じたことがない。アイクは剣や斧のように、前線に立って真っ向から刃を合わせるほうがよっぽど好きだし、性に合っていた。
つまり、無意識ではあるがアイクは弓兵を軽視していた。そんな弓兵の男にだ。実力なしの弱腰坊主と嗤われて、だったらあんたはどうなんだ、と思わずにはいられなかった。
手の中で真っ二つに折れた矢は、とても頼りなく見える。こんな細くて呆気なく折れてしまう棒なんかで、敵が倒せるものかと、そのときは本気で思ったものだ。

が、一言で言えば見直した。
というより、正確に言えばアイクは弓の、矢の威力というものを始めて目の当たりにした。
結果的にいえば、しびれた。
細い棒切れと馬鹿にして悪かった。急所を貫く鏃は確実に敵を仕留める。
弓矢は確かにすごい武器だ、が、それよりもすごいのは射手だ。そう、シノンがすごいのだ。
あのときアイクは彼の姿をぱっと見つけることが出来なかった。かすかに赤が翻ったのが見えただけだ。どれほど遠いところにいたのだろう。敵の姿はきっと小指より小さかったろう。当てるのさえ並ならば困難なはずだ。それをシノンは、さらに小さな頭の眉間をきれいに狙ってみせた。
ミストとティアマトに強制されて手をつけた裁縫の、針に糸を通すことさえ出来なかったアイクには、まるで想像できない話だった。
だがシノンはそれをやってのけた。ミスしてはならない極限のその状態で、彼は的を外すことをしなかったのだ。
それを理解したとき、アイクはシノンの実力を思い知った。
ヨファがシノンの矢羽に歓声を上げたように、アイクも見事な一矢に状況を忘れ、一瞬の間ではあるが感動さえ覚えた。
達人の域にある弓技は、アイクにはとうてい、人間業には見えなかったのだ。
「シノンは、」
「うん」
「人間じゃないな」
「ええ!?」
憧れのシノンさんが人ならざることを告げられた弟子は思い切り驚いた。
手にしていた玩具のような弓を、思わず折ってしまうほどだった。

*

そうしてアイクの中のシノン株は急上昇、仏頂面の裏で敬意みたいなものまで芽生えていたりした。
が、なにせアイクは不器用だった。ヨファのようにキラキラ目を輝かせて素直にシノンさんシノンさんと纏わりつくことができていれば、あるいはシノンとアイクの関係はもっと良好なものになっていたことだろう。
しかしアイクはそれができなかった。正確にはシノンがそれをさせてくれなかった。
アイクがなにかを言おうとするより早く、顔をしかめるか皮肉げに笑うかしてみせて、揶揄の言葉を寄越すのだ。
口がうまくはないアイクがとっさに言い返せないでいると、シノンはさっさとアイクの前から身を翻す。
そうしたやり取りの末、結局アイクとシノンの関係は一向に良化することはなかった。

やりきれない話である。
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