0.前書き

アイクとリンクがルームシェア!で友達ぶってたりときどきなんか怪しい雰囲気になったりするよ!という設定前提






マッサージという名の暴力だと訴える

 ベッドの上、男二人座ってこれから何が始まるのかって、そんなの決まってるだろ。
「誤解のないように言っとくけど、マッサージするだけだからっ」
「? ああ、わかってるが」
 あぐらを組んで座ったアイクの背後、オレも同じように座りながら手を持ち上げた。両の親指を構えて、アイクの背中を睨みつける。これから始まるのは紛れもなくマッサージだ。
 男らしい座り方をして、少し前傾気味に丸くなっている背中をグッグッと押す。グリグリうりうりツボを押してやれば、「んん、」とか「っふう、」とかアイクが呻く。普段の声じゃなくて鼻にかかった声。肩甲骨の下のあたりをグリグリしてやれば、丸かった背がのけ反って、全身でぶるぶる震えた。
「っぞくぞく、する・・・!」
 かすれた声で言うんだもんなあ、嫌になっちゃうなあ。顔が赤くならないように、オレは自分に言い訳する。あくまでも、マッサージだから。変な誤解とかそんなのはしちゃいけない。やましいことなどなにもないのです。
 男二人で間違いなんて起こりようもないが、男の癖に変にエロい声を出すコイツがいけない。ぞくぞくしてるのはお前だけじゃないんだよ、と思いながら、グリグリを別の場所に移せば「うひー」とやる気のない声を出す。いまいち、色気があったりなかったりはっきりしない。
 というか、色気ってなんだ色気って。
 自分に残念な気持ちになったオレは、「交代だっ」とアイクの背中を叩く。少し名残惜しいような顔で振り向いたアイクに、オレも背中を向ける。
 そういえば当たり前に背中を向けたけど。
「お前、マッサージは上手いの?」
「みんな善すぎて声を上げるくらいだ」
 アイクはそう言うが、ちょっと不安である。だって、背後から「腕がなる・・・」の呟きとともに、ゴキゴキ関節を鳴らす音が聞こえるのだ。ちょっとどころじゃなくかなり不安・・・ってか、むしろ怖い。
「お手柔らかにね・・・?」
 窺うように尋ねたら、「任せろ」と即行で返ってきたけど、やっぱり不安だ。
 背中にアイクの手が触れて、いろんな意味でドキドキしながら息を詰める。グッと背中が圧迫されて、いや、圧迫しすぎ・・・!
「う、ぐぐぐぐぐ・・・っ。ア、イク・・・きつっ・・・!」
「なんだ?まだ足りないか?・・・ぬんっ!」
「ぎゃああああああああああああああああああああああ!!」
 ゴキ、と背中から妙な音が聞こえた気がする。
 それよりなによりっ・・・痛すぎる!!痛みに泣いたのは久々だッ!!!
 オレが悶えていると、すぐ後ろから聞こえたあからさまな溜息。
「あんた、出すならもっと色気のある声出せよ」
「――っ出るか、馬鹿!っつーか痛いんだよこの野郎おおおおおおおおおお!!!」
 思わず振り返ってグーで殴った。
 腹が立ったし、痛かったので。

 アイクのマッサージが暴力的にヘッタクソだったから、オレはきっと、もう二度とアイクにマッサージを頼まない。――けど、アイクの声は男のくせにエロかったから、たぶんオレからはまたマッサージをしてあげちゃうんだろうなあと思って、なんともいえない気持ちになった。




寒い日の夜にやっちゃったこんな話をリンクが語る

 オレが夜中に目を覚ますのは珍しい。自分でもそう思う。
 何故かって、寒かったからだ。さすがに、薄い毛布一枚じゃ、冷え込む夜気に耐えられなくなってきた。
 オレはもぞもぞ身じろいで体を丸めてみるが、どうあがいたって寒かった。眠るに眠れない。
 こんなに寒くなってきたのに、まだこの部屋には毛布とタオルケットしか用意されていなかった。早いとこ、分厚い布団を出してもらおう。しょうがないから今日は諦めるけど。
 寝静まった部屋には、オレが身じろぐ音と、ルームシェアする男の寝息がくうくう聞こえている。
 この寒いのによく眠れるなと思ったが、まあアイクは面の皮が厚い男だから、ちょっと寒いくらい平気なんだろうなと納得しておいた。
 あーしかしどうしようか。
 眠いといえば眠いわけだが、どうにも寒さが肌を刺す。もっと着込もうかと起き上がってみたら、さらに寒くなって思わず毛布を羽織った。
 考えてもみれば、温められていない服を着た瞬間は寒いはずだ。それはもう嫌だし面倒だしで、どうしようかと半分寝ている脳で考える。
 ふと、視線を向ければ、アイクは能天気に寝ている。ルームメイトがこんなに悩んでいるのに無神経に寝ていやがる。友達甲斐のない奴・・・と、むくれたところで気が付いた。
 アイクの布団に入ればいいんじゃないか?
 この閃き、寝起きにしてはよく気付いたものだ。もしかしたらオレは天才かも知れない。勇者と書いて天才と読む、みたいな。
 夢見心地でうふふと笑いながら、オレはいそいそアイクのベッドに乗りあがって、毛布を羽織ったままアイクの毛布の中に潜り込む。
 その際、気を使って壁際に寝そべったのだが、狭い。これじゃ寝苦しい。
 男と同衾する時点ですでに寝苦しいのに、この上狭くて寝苦しいのではせっかく暖かくても眠れない。ので、落ちない程度にアイクを押して、やっと我慢して眠れるスペースと、ちょうどよい温もりを手に入れることに成功したのだ。
 さすがオレである。
 もちろんそのあとは、すぐに眠りに落ちたわけで。


 この日、なんだかとてもイイ夢を見た。
 たとえばどんなのかって全様を覚えているわけじゃないけれど、スカッとする内容だった気がする。
 覚えていることが一つ。オレは、あの気に食わないガノンを思いっきり蹴っ飛ばしてやったのだ。
 うん、とてもイイ夢だった。


 翌朝、アイクがベッドから落ちた音と声で目を覚ましたオレは、何が起きたのかわからないでいるアイクに、寝ぼけた頭で言ってしまった。
「なぁにしてんだおまえー?まぬけだなー」
 ついでにハハハと声を上げて笑ってしまった。だって見上げるアイクの顔は本当に間抜けだったのだ。
 しばらくしてようやく事態を把握したアイクは、少しばかり本気でぷっつんキたらしい。ベッドをガンッ、と蹴ると、ものすごい不機嫌顔で部屋を出て行ってしまった。

 ベッドを蹴られた衝撃でやっとオレは自分のしでかしたことに気付いた。
 そもそもここは彼のベッドで、無理やり潜り込んだのはオレで、恐らく彼を落としたのは、オレが見たイイ夢が大いに関わってくると思われる。
 怒り心頭のアイク相手に、この日一日かけて謝り通したのは言うまでもない。




寒い日の夜にしてやられたこんな話をアイクが語る

 真夜中に身じろぐ気配があった。同室の男のものだった。
(・・・珍しいな)
 半分くらい覚醒して様子を窺う。リンクは一度寝たらとことん寝る男だから、これは本当に珍しい。
 見れば、寒そうに身震いしている。毛布がもぞもぞ動いて、芋虫のようだ。
 確かに、この夜は冷える。つい先日まで本当に暑かったから、この冷え込み具合に体がついていかないのだろう。自覚してみれば寒くなってきたが、ぬくい毛布の存在を思えば眠れないほどでもない。
 しかし、リンクは違ったようだ。毛布を纏ったままむっくり起き上がったそいつは、寒そうに、眠そうに、ぼんやり首を巡らせている。服でも着込むのだろう。
 俺もそろそろ眠くなってきた。目を閉じると、すぐにリンクのことなんてどうでもよくなる。なにしろ真夜中、正確な時間は知らないが、寝ていなきゃならない時間帯だ。
 リンクが立ち上がった気配がしても、今度は気にしなかった。俺は寝るつもりだったのだ。
 それが遮られたのは、俺の寝台が不穏にもギシリと軋んだから。とっさに跳ね上がらなかったのは、それがリンクのせいだとわかったからだ。別に、唐突すぎて固まってしまったとか、そんなんじゃない。勘違いするな、断じて違う。
 リンクは寝ぼけているのだろう。じゃなきゃ、「お前と一緒に寝るよりは、マルスと一緒に寝たいな、オレ」なんて戯けたこてを言っていたリンクが、俺の寝台に入ってくるわけがないだろ?
 俺が顔をしかめて考え込むうちに、リンクは遠慮なしに侵入してくる。壁際に滑り込み、あまつさえ俺の体を淵に押し退けやがるのだ。
 さすがの俺も、これには物申そうと振り向いた。が、拍子抜け。リンクはすでにぐでっと夢の中にいた。
「この野郎・・・」
 毒づくが、反応なし。俺の毛布の中でさらに自分の毛布にくるまっているそいつは、今は暖かさに満足したのか間抜けににやついている。
 本当にもうどうしようもないな、この男。
 俺はため息をついて、またごろんと寝返りをうつ。
 別に、リンクの寝顔を見るのがいたたまれなかったとか、そんなんじゃない。断じて違う。今の姿勢が少し寝苦しかっただけだ。勘違いするなよ。

 存外、心地の良い温さだったもので、俺もすぐに意識が落ちた。
 朝、俺の隣でリンクがどんな反応をするものか、それだけが楽しみだ。



 腰のあたりを蹴られたのが目覚めの合図だったと思う。
 全身が固い床に叩きつけられ、俺は呆然とした。
 なにが起こった?
 真っ白な頭で何度も瞬く俺を、見下ろしたのはリンクだった。とっさに、深夜のことが頭によみがえる。そうだ、俺とリンクは狭い寝台で、並んで寝た。
 寝ぼけたリンクの奇行に、付き合ってやったのだ。
 本来なら俺に感謝しなければならないはずの同室人は、手をさしのべることもなく俺を見下ろして笑った。
 おかしなものを見て、面白がる笑い方だった。
 それだけでもカチンときたというのに、あろうことか。

「なぁにしてんだおまえー?まぬけだな〜」

 あんたは、ケラケラと笑ったよな。
 俺は笑う余裕もなかったよ。イラッときてプツッといったのが、自分でもわかったからな。

 そこからは全部勢いだ。
 リンクの乗る俺の寝台を、思い切り蹴った。裸足だったから正直痛かった。根性と怒りで痛みを殺した。
 呆気にとられた顔のあんたを置いて、俺は猛ダッシュで部屋を飛び出す。重ねて言うが、裸足だ。しかも寝間着は半袖だから寒いのなんの。
 今更部屋には戻れず、俺は朝からマルスの部屋に押しかけた。早朝迷惑省みず。
 寝起きのマルスのねちねちしながらも鋭く突き刺さる厭味も堪えたが、マルスと同室のミスゲが、寒さに震える俺にそっと毛布を掛けてくれた――その優しさがなにより堪えたのは、俺の胸にだけしまっておくことにする。
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