6.頭が真っ白になった。

思考は停止してしまったけれど、体は正直だった。全身全霊で拒否反応を示し、無意識に足を振り上げる。
「ぃだッ…!?」
まさか抵抗が返るとはつゆにも思わなかったアイクは思いっきり油断していた。腿の付け根あたりにリンクの膝が入り、衝撃と痛みに身を浮かす。
思考が停止していてもリンクの体はとっさに動いていた。勇者の名に違わず、危険に対する反応値はめっぽう高い。ぐい、と力ずくでアイクの体を押し退けて、ベッドの上から飛び退いた。反射的にサッとファイティングポーズをとる。
かろうじて股間へのクリティカルヒットは免れたとはいえ、情け容赦ない一撃をもらったアイクは蹲って患部を抑える。当然、痛い。ぐうう、と唸りながら、なんとか顔を上げると、そこには迎撃体勢のリンク。
俺がいったい何をしたというのか。
腑に落ちない思いで、アイクはリンクは睨め付ける。
「・・・なんの真似だ」
「お、おま、それはこっちの台詞だ!!」
不機嫌を含んだ低い声に、リンクも負けじと怒鳴り返す。
ビリビリした雰囲気の中、痛みを押さえ込んだアイクはゆらりと身を起こした。リンクは身構える。アイクも拳をグッグッと握り締める。
まさに一触即発。次の瞬間にどちらが手を上げてもおかしくないほど険悪な雰囲気が、部屋中に張り詰めていた。





7.ティーカップを傾け、食後のハーブティーを存分に味わう。

心と体が安らぐ感覚に、ふう、とマルスは息を吐いた。ピコ、ピコとレトロな音を立てながら、Mr.ゲーム&ウォッチもハーブティーを飲んでいる。この平面のどこに消化されているのだろう、とぼんやり考えながら、マルスはふふ、と上機嫌に微笑む。
「おいしいかい?」
首を傾げれば、Mr.ゲーム&ウォッチはすぐに片手を上げた。ピコ、とまた音がなる。
予想外のルームメイトだったが、彼は上等な相手だった。こう見えて紳士的で、落ち着いていて、意思の疎通もとれるし、なにより思いやりのある男だった。
優しい彼は、マルスに気を使って夜はピコピコ鳴る駆動音を立てないようにひどく気を遣ってくれるのだ。消音モードなんて搭載されていないくせに、なんて健気なのだろう。
Mr.ゲーム&ウォッチのさりげない気遣いに胸打たれたマルスは、あまり無理をしないでね、と本心からそう告げた。
そういうわけで、ルームメイトに恵まれたマルスは今、優雅にティータイムなんかを楽しんでいた。実は一日の中で一番癒される時間だったりする。Mr.ゲーム&ウォッチからはきっとマイナスイオンか何か素敵なものが放出されているに違いないんだ、とマルスはこっそり結論付けているのだ。
ハーブの香りを楽しみながら、マルスはルームメイトに恵まれなかったらしい友人たちを思い浮かべた。
そんな彼らのすれ違いを正すため、今日はお節介を一つやいたのだ。
今頃はきっとお互い腹を割って話し合いをしているところだろう。
明日には肩を組んで現れるかもしれない。
「君もそう思うだろう?」
Mr.ゲーム&ウォッチはまた、ピコ、と手を上げた。マルスはにっこり笑う。
そう、僕と彼のようにきっと彼ら二人も気が合うと思うんだ。
上機嫌なマルスはこの日、とてもよく眠ることが出来た。彼は明日、リンクとアイクに会うのがとてもとても楽しみだった。

マルスはまさか、件の二人のすれ違いが限度を超え、殴りあいにまで発展しているなど、夢にも思わなかったのだ。
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