| 3.お酒 |
|---|
|
ふいに、ごすっとテーブルに突っ伏したのを見て、あーあ、と思った。 突っ伏して動かなくなったそれは、しばらくするとくぅくぅ寝息を立て始めて、ため息をつく。 「本格的に寝ちゃったねー」 「弱いのにぐいぐい飲むからだな」 「美味そうな顔をするでもないくせに」 寝入ったアイクの頭を眺めながら、残った面子が口々に言う。 「今日もお酒に敗北。よくやるね」 マルスは呆れるでもなく、感心するでもなく笑う。 酒に勝つ、だなんて馬鹿馬鹿しいことを言ってみせたアイクは、今日こそは酔いつぶれないと声高に宣言したものの、すでに泥酔状態だ。 明日にはまた二日酔いの死にそうな顔を見せるのだろう。 「馬鹿だな」 「身も蓋もない」 スネークが頷きながら呟いて、リンクが苦笑して首を傾げる。 なおも気持ちよさそうな寝息をたてているアイクのつむじあたりを眺めながら、残った男3人で、特に会話なく酒をあけていく。 実にむさっくるしく無意味で怠惰な酒宴である。 * 「脱がそうか」 酔っ払いは突発的で突拍子がないからたちが悪い。 ゆっくり立ち上がったマルスの目は据わっている。アイクのつむじを見るのも飽きたらしい。 はっきりしない頭でリンクはソレを見ていたが、スネークが「おう、やれやれー」と無責任に声を上げたところで、眉をしかめた。 「脱がすって、」 「アイクをだよ?」 振り向いたマルスは、にこりと笑った。 「だって、こんなに寝てるんだし」 「なにが“だって”なんだよ」 適当なツッこみは、笑顔で黙殺されて、流される。 「寝息が意外に可愛いのも悪いんだし」 「これまた意外にいびきもかいてないしな」 スネークが調子を合わせて、「そうだよ、それもそう」とマルスが嬉しそうに頷く。 リンクからしたらとんだ言いがかりだとしか思えない。 ただ、アイクの寝息が大人しいのはリンクにしても意外だ。乱闘中に強制的に眠らされたときはぐーすかいっているのに、今はそれがない。案外、眠りは浅いのかもしれない。 「ぐっすりだね」 「本当に酒に弱いな」 テーブルに伏せっていたのを、よいしょ、なんていいながら横たえる。 アイクはそれでも起きない。すぅくぅいっている意外な寝息も変わらない。 マルスの手が服に触れても、身じろぐ気配すらない。 部屋着のラフな格好は、あっという間に剥ぎ取られた。整った上半身が、晒される。 「イイ体してるねー」 「変態臭いなぁ」 「こうして見ると、そう華奢でもないんだな」 「腰はけっこう、細いけどね」 男3人で、まじまじと男の体を眺める。怪しいし、滑稽だ。 だが、そんなのは酒が入ってハイになった酔っ払いにはどうでもいいコトで、マルスなんかはペタペタ無遠慮にアイクの腹筋に触れている。 「あれだけ重いもの振り回してたら、そりゃあ筋肉もつくよね」 ひとしきり撫でて満足したのか、マルスは迷いなくズボンに手をかける。 「おいおい、」 「下も脱がすのか?」 リンクは呆れた声を上げたが、スネークは面白そうに身を乗り出す。 「当然だろ。だって、寝てるんだから」 「だから、何が”だって”なんだよ」 アイクは起きない。容赦なくズボンも剥がれて、パンツ一丁なんて情けない格好になっても起きない。 リンクが投げやりに、「あーあ」と声を上げても、やはり、アイクは起きない。 じーっと、アイクを眺めていたマルスが、「・・・・・なぁんだ」と首を傾げる。つまらなさそうな仕草だ。 寝ている相手を好き勝手にひん剥いといて、この上何が不満なのか。 「意外に、普通のパンツだ」 「意外にって、何を想像してたんだよ」 怖いよお前・・・、と素直に思ったから、リンクは心持ちマルスから距離を置く。 ただ、面白そうにやり取りを眺めていたスネークは思うところがあったようで、意外に普通らしいそのパンツを指差しながら、言った。 「HUNNDOSHI希望だったのか?」 「ノーパンでも面白かったんだけど」 アイクをなんだと思ってるんだか、わかったもんじゃない。リンクはそこで少し顔を歪めて、気まずそうにする。 「・・・マルスって、ゲイなのか?」 「人聞きの悪い。僕は博愛主義者なだけだよ」 「バイか」 「バイだな」 リンクとスネークが頷きあって、マルスの性向を理解したところで、アイクが小さく身じろいだ。 「・・・ぅ、」 小さなうめき声は、無意識に悪寒を感じ取ったからか。 『あ、』と声を揃えた三人は、わけもなく息を潜めてアイクの様子を見守る。 「起きるか?」リンクは首をかしげた。 「まだ起きなくていいのに」マルスは不満そうに呟く。 「流石にここまでされれば、いくら酔っ払ってるとはいえ、起きるんじゃないか?」 スネークはアイクを覗き込んで、悪い夢でも見ているのか、マルスに悪寒を感じたのか、う゛ーう゛ー唸っているその頭を撫でてやる。 「あ、ずるい」 むくれたマルスは無視して、柔らかくもないが決して不快じゃない質感の髪を梳いてやる。そうすると、寝こける酔っ払いが、手のひらにぐりぐり頭を押し付けてきて、スネークは思わず笑った。 「猫みたいだな、おい」 「ずるいよスネーク。僕もアイク撫でたい」 マルスを無視して、スネークはアイクの頭を宥めるようにぽんぽん叩く。押し付けられていた頭が落ち着いて、アイクはくふんと満足そうに息をついた。唸ることもない。 かわいいな、なんて思ったのは酔っ払いの戯言だったのか。そのまま撫で続けたかったが、マルスに不躾に手を払われた。 「僕も撫でる」 据わった目で睨まれては、抗議の声を上げるのも億劫だ。 スネークはやむなく手を引っ込める。 変わりに、満足そうに手を伸ばしたのはマルスで、えへへなんて幸せそうに笑いながらアイクの髪に触れた。途端、うう、と唸って眉をしかめたアイクは、マルスの手から逃れるように顔を背ける。 予想外の反応に固まったのはマルスだ。リンクはその光景の間抜けさに耐え切れずに噴出した。が、すぐにマルスにひと睨みされて、顔を逸らしてげふげふと笑いを誤魔化した。 「嫌われてるんじゃないのか?」 さらりと言ってのけたスネークの顔に優越を見て取って、マルスはこめかみを引き攣らせる。 機嫌を損ねたのは明らかで、ぷいっと幼い動作でそっぽを向いたマルスはしかし、すぐに他所に興味を向けた顔つきになった。リンクは嫌な予感がしてならない。 だってマルスの見ている先は、アイクが唯一纏うモノ。意外に普通、と言わしめた、例のパンツである。 「まさかマルス、お前・・・・・」 「脱がそうか!」 不機嫌をどこかにすっ飛ばして満面の笑みになったマルスの腕を、リンクはせめてもの良心で止めにかかる。 さすがに、すっぽんぽんは哀れすぎる・・・。 「やめてあげなさい」 リンクの声が慈愛を帯びて届いても、マルスは不満そうな顔だが、隙あらばパンツを脱がそうとする手を止めはしない。 存外強い力に困ったリンクはスネークを振り向くが、彼は愉快そうに笑って野次を飛ばすだけで、手にした酒をぐいっと煽っている。その顔は酔っ払ったエロ親父だ。頼りにならない。 なおも脱がす者と止める者とで拮抗は続いたが、諦めたのか先に手を離したのはマルスだ。 「ダメかなぁ?」 「ダメだろう」 「だって寝てるのが悪いんだし・・・」 「寝てるのが悪いのはこの際納得するけど、俺が見たくないからヤメテクダサイ」 いくらなんでも、リンクとて眠っている野郎の真っ裸、しかも股間さえも晒すなんてのは見たくもない。 切実な思いを伝えれば、マルスは下唇に指をあてて、「んー、」と小首を傾げた。 また何をたくらんでいるんだか、酔っ払いのなすことは奇天烈極まりなくて、油断は出来ない。 「君がそこまで言うなら、やむなくパンツは諦めてあげる」 「そりゃどうも・・・」 案外、色よい返事に安堵して、リンクはほっと息をついた。 マルスはそれににっこり笑うと、「かわりに、ちょっと弄るくらいはいいよね?」と許可を貰うでもない声音で言って、またアイクの体へと手を伸ばした。 触れたのは、 「っ、」 裸の胸の、淡い色をした突起。 詰めたような息を吐いたのは、ピクンと体を震わせたアイクだったのか、酔いのせいだけでなく顔を赤くしたリンクだったのか。どっちでもいいやとマルスは気にせず、転がすように突起を弄る。 「・・・っん、・・・」 もれた声は、今度こそアイクのものだ。鼻にかかった妙に甘い声が、異様に静まり返った部屋に響く。 リンクもスネークも、マルスを止めるために動くことは出来なかったし、マルスにはそもそも止める気はない。 「ぅ、ん・・・っぁ、」 「かたくなってきた・・・」 さらに指を動かし、ふふ、と笑う。色づいた突起は、普段なら性的な意味で見ることもないのに、今はどうにも、淫猥に見えてしまう。 ん、なんて体を震わせるアイクの顔が、思いのほか淫らに歪んでいるのも原因かもしれない。あと、酒の入った不明瞭な思考も。 マルスはさらに悪ノリして、アイクの胸へ顔を伏せると、ぺろりと突起を舐め上げた。 「ふあっ・・・!」 アイクのものとは思えない甘ったるい声に、リンクはとうとう顔を伏せる。 自身のモノがアイクの変な声とマルスの淫靡な表情に反応して、軽く立ち上がってきたのを慌てて手を隠した。どうしてこんなことに。泣きそうだ。 リンクはそこでちらりとスネークの様子を窺ってみる。あわよくば、彼がマルスを止めてくれたら。 しかしスネークは口元に手を当てて、真顔で二人の卑猥な様子を見ているだけで、止めようなんて考えはきっとないに違いなかった。 どうしようどうしようと俯いて頭を抑えるリンクは、アイクの息が乱れてきたのには気付いても、マルスの手が今度こそアイクのパンツへかかったのには気付けない。 「ああっ!」 ひと際高い声でアイクが鳴いたのを聞きながら、心中でリンクは叫ぶ。 (もう二度とこいつらと酒なんて飲んでたまるものか!) |