1
アイク、と自分の名を呼んだのは、ポケモントレーナーだった。
長い呼び名だ、とアイクはポケモントレーナーというそれについて常々思っていた。誰が彼に本当の名を尋ねても、返ってくるのは苦笑と、なんとでも、とはぐらかすような答えだけだ。
何度たずねても彼の答えは同じで、今では皆諦めて、たいていの奴はポケトレと略して呼んでいる。
その中で、アイクは、彼をトレーナーと呼んでいた。
「トレーナー」
「アイク!」
またアイクの名を呼んで、ポケトレは心底嬉しそうな顔をする。こんなに眩しい顔をする彼を、アイクは見たことがなかった。
「どうし」
「アイクー!」
言葉を遮って、ポケトレはアイクに抱きついた。突然の暴挙だった。
アイクはもちろん驚いた。彼はこんなスキンシップを図るほど、積極的ではない。少しだけ困惑したが、嫌ではなかった。頓着しない性格なのだ、アイクは。
「アイク、アイク、ああ、アイクだー」
「あ、ああ・・・、俺だぞ。どうしたんだ、トレーナー?」
ぐりぐり胸元に頭を押し付けてくる相手に尋ねて、アイクははたと気づく。そういえばポケトレは、いつもアイクを“さん付け”で呼んでいた。
今はそれがないな、とは思ったが、別段気にはしなかった。呼び捨てにされることに抵抗はない。それに、先も言ったが、頓着しないのだ、アイクは。
「アイク!」
「なんだ?」
「好きだ!」
「・・・ぅん?」
聞こえなかったわけではない。ただ、意味がわからなかっただけで。
怪訝に眉をしかめたアイクにかまわず、ポケトレはぎゅーっとアイクの意外と華奢な腰に手を回して、抱きしめる。
「好き、好き好き、大好き、アイク大好き」
「・・・・・ちょっと、落ち着け、トレーナー」
さすがに恥ずかしい。
が、ポケトレは気にもしない顔でアイクを見上げて、言った。
「だって、今伝えなきゃ。時間もないし」
「なんだって?」
「だから、好きだよ、大好きだよ、アイク。好き」
「・・・・・話にならんな」
ため息ついてアイクは諦めたように首を振った。ポケトレはおかしい。どう見たっておかしい。さすがにアイクもそれはわかる。だが、どうしておかしいのかはわからなかったし、言っていることの意味もよくわからなかった。
「アイク、好きだよ」
「・・・そうか」
にこー、と笑うポケトレは、とても無邪気な顔をしていた。まあ、悪くはない。
だからグイグイとポケトレに腕を引っ張られても、アイクは引かれるままに歩いていく。彼が本気を出せば、立ち止まって腕を引くだけで、ポケトレはきっとよろめいて立ち止まるだろうが、アイクはそれをしなかった。
様子のおかしいポケトレだが、別に悪意があるわけでもなさそうなので、それを考えると、まあ、どこに連れて行かれようとどうでもよかったのだと思う。くどいようだが、アイクは頓着しないのだ。
2
だがさすがに、この状況はどうかと思った。
ポケトレの自室に連れ込まれて、なにをされたかというと、つまりベッドに押し倒された。
反転した視界は、やはりにっこり笑うポケトレと、その背後に白い天井だけが見えていた。やっぱり、どうかと思う。
「アイクぅ」
「・・・・・トレーナー」
声が低くなったのは、無意識だった。
きょとんと見下ろしてくるポケトレに、アイクは言う。
「あんた、おかしいぞ」
「・・・おれ、おかしい?」
「ああ、おかしい」
「そっかぁ」
コクコクとポケトレは頷いたけれど、アイクの上から退こうとはしなかった。それどころか普段より幼い表情は、本当に理解しているのかとアイクを不安にさせる。
どうなるんだこれから、とは思ったが、アイクはとりあえずぼんやりと上空に目をやっていた。一応、身の危険は感じなかったから。
ポケトレは上機嫌で「アイク、アイク」と、この上まだアイクの名前を呼び続ける。なんだ、と応えたところで好きだよ、と言われるだけなので、いい加減めんどうになってアイクは口を閉じた。
閉じて、少しして、思い至る。
「・・・そういえば、今日は、ポケモンたちは?」
ピク、とポケトレが反応を示した、気がした。
首筋に顔をうずめていたポケトレは身を起こして、アイクの目を覗き込む。
「気になる?」
「気になるな」
「会いたい?」
「会いたいな」
「誰に一番会いたい?」
「誰に?」
あんたのポケモンたちの中でか?と聞くと、ポケトレは大きく頷いた。こんなことをポケトレが聞くのは初めてで、アイクは少しだけ首を傾げたが、すぐに考える。
誰に、と聞かれても。ポケモンにとても興味のあったアイクは、よく彼の手持ちにかまっていた。ゼニガメも、フシギソウも、リザードンも、どいつもイイ奴だと思っているし、好きだとも思っている。
優劣をつける必要があるのか?と思ったが、ポケトレの顔はにこにこ笑っていたさっきまでと違い、真顔になって真剣みが増していた。どれか一匹、選んだほうがよさそうだ。しかし、悩む。
そのとき、ふと、脳裏をよぎったのは。
「―――・・・・・・・・・・ゼニガメ?」
3匹の中でも特にアイクに懐いていて、会いに行くと抱っこを強請ってくる、可愛らしいカメ。そうだ、あれだ。ポケトレの部屋に来たというのに、抱っこをせがんでくるゼニガメがいないだけで、なんだか物足りなく思ったのだ。
正直にそう言えば、ポケトレは驚いたような顔をして、すぐに満面の笑みになった。
「アイク!!」
「うおっ!?」
頭突きするような勢いでポケトレがアイクを抱きしめる。
「アイクっアイクっ、」
「な、んだ・・・?」
「おれを選んでくれると思ってた!」
「・・・・・?」
「好きだよ、好き、大好きだ、アイク!」
むー、と顔を近づけてきたかと思うと、ちゅっ、と口に柔らかい感触。
なんだ、と思ったら、更に連続でそれは触れてくる。軽くて、柔らかくて、どこか心地いい。そうだ、これはキスだ。
アイクが気付いたと同時に、ポケトレは顔を離してまた、にぱーっと笑った。
「アイク。実はおれね、アイクにおねがいがあるんだ」
「お願い?」
アイクはキスの意味がわからなかったし、好きだと告げるポケトレの真意もわからなかったし、彼が言ってることの意味もさっぱりわからなくて少し混乱していたが、おねがいと聞いて、反射的に聞き返していた。
ポケトレは頬を赤く染めていて、照れるようにはにかんで、言った。

「おれの卵を産んでほしいんだ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・は?」

アイクが間抜けた声を上げたのは、まあ、当然のことだった。
3
ちょうどその頃、ポケモントレーナーは叫んでいた。
背後から羽交い絞めにしているのは、己の手持ちであるはずのリザードンだ。離せ、離してくれ、リザードン!といくら喚いても、どういうわけか、解放してくれない。
普段従順なはずのリザードンは、この上なく申し訳なさそうな顔をしていたが、それだけだった。
ポケトレは焦る。とにかく焦れる。このままだと、どうなることか、わかったものじゃない。
じたばたと暴れる自分の腕は、淡い水色をしている。足だってそうだ。それ以前に、手も足もヒトの形をしていなかった。
ポケトレは現状の意味はわからなかったが、自分の現状だけははっきりわかる。
(・・・なにをするつもりなんだ、ゼニガメ・・・っ!)
手持ちであるはずのゼニガメの体に意識を乗せて、リザードンに羽交い絞めにされている、それがポケトレの現状だった。
ポケトレはふよふよ浮いて面白そうに笑っているマナフィを睨む。ゼニガメの大きくて愛らしい瞳が、少しだけ険悪そうになったくらいでは、きっとマナフィどころか誰だって怖がらないことだろう。


いきさつとしては、こうだ。
ゼニガメにせがまれるように引っ張られてやってきたポケモンスタジアムのステージで、なぜか待ち受けていたマナフィに、問答無用のハートスワップをキめられて、その場に控えていたリザードンに羽交い絞めをくらった。
ゼニガメの小さな体にはポケトレの魂が入ったが、ポケトレの体にはゼニガメの魂がきっちり納まった。ゼニガメは、人間の手を感慨深げに見下ろして、わきわき五指を動かして、笑った。
「マスター。ちょっとだけ体、貸してね」
ご機嫌そうにそれだけ言って、ゼニガメはポケトレの体ごとさっさとどこかへ行ってしまった。
冗談じゃない、と慌てて追いかけようとしたところで、リザードンに捕まった。
『離してくれよ、リザードン。絶対おれの体でなにかしでかすつもりだ、あいつ』
『・・・マスター。ヤツの雄としての一世一代の大勝負なんだ。ここは見逃してやってくれないか』
リザードンの声はとても渋くて深みがあった。ポケトレはこの声をはじめて聞いたが、声だけでもリザードンの男前度がうかがえる。そういえばポケモンと言葉を交わすのは、当然だがこれが初めてだ。
顔を後ろに向けると、リザードンと目が合った。やはり申し訳なさそうだが、ポケトレを離す気配はない。
リザードンは、どうやらゼニガメの目的を知っている。知っていて、ポケトレを抑えている。
並々ならぬ理由があるのかもしれない。リザードンの声はポケトレにそう思わせるほどの気迫があったし、理由次第では体を貸してやるのもやぶさかではないとも思う。
ポケトレは、暴れるのをやめてリザードンに尋ねた。
『リザードン、お前、知ってるのか?ゼニガメがなにをするつもりなのか・・・』
『知っているとも』
『じゃ、じゃあ、教えてくれないか?あいつ、どうして・・・、』
『ゼニガメには好きなヤツがいるんだ』
『え?』
好きなヤツ。
それが、どうしてこの状況につながる?
『ヤツが好きなのはポケモンじゃない。人間だ。マスターと同じ』
リザードンの低くて男前な声は、聞いているだけで惚れ惚れするし、ポケトレをすぐにでも納得させるような響きがあった。人が相手だから、同じ人の姿をもって話をしたいのかもしれない、ゼニガメは。
『ヤツは、告白をするつもりだ』
『こっ、こくはく!?』
ポケトレは年齢にふさわしくその方向にはうぶだったため、告白、なんて響きに大げさなくらい顔を赤らめた。
だ、誰に・・・!?と声を裏返らせながら、ポケトレは尋ねる。
好きな相手まで聞くのは詮索しすぎか、とも思ったが、わざわざ体を貸してやったのだから、とポケトレは言い訳する。
なにしろポケトレは、普段なにを考えているかわからないあのおっとりしたゼニガメが、このような暴挙に出てまで告白する相手というのが、とても気になってしょうがないのだ。
相手は人だというから、ピーチ姫か、ゼルダ姫か、サムス姐か、それともナナか?
だがリザードンが口にした名前は、そのうちの誰でもなかった。
『アイクだ』
『・・・・・・・・・・・誰って?』
『アイク』
『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ええ?』
思わず、首をかしげる。だってアイクといえば男の人じゃないか。
確かにアイクはポケモンたちをよくかまっていたし、ゼニガメだって毎度毎度抱っこをせがむほどに懐いてはいた、いたが、いや、まさか。そんな。
『う、そ、だろ・・・?』
『嘘じゃあない。ゼニガメはアイクが好きで、告白する、らしい』
脳が急速に回転する。
ゼニガメは、今、ポケトレの姿で動いていて、そのままの姿でアイクに告白する、と。
いやいやいやいやちょっと待てちょっと待て、それって結構、まずいんじゃないか?
しどろもどろになって震えるポケトレを安心させる心積もりなのか、リザードンは力強い響きで言った。
『安心してくれ、マスター。ヤツはオレたちが思っているよりずっと男らしい』
『ああ、そうなんだ・・・、』
リザードンの声にあやうくだまされそうになるが、ゼニガメが思いのほか男らしいとわかったくらいでは、なにも安心できない。
そんなポケトレの心のうちを読めなかったリザードンは、続けてしまった。
『ヤツの落とし文句、なかなかのものだぞ。今時“おれの卵を産んでくれ”なんて言えるオスポケモンはなかなかいなぃぶふぁっ』
『ってバカー!!!!!!!!!!』
衝撃の落とし文句に、ポケトレは叫んだ。勢いで口から水鉄砲まで噴射する。リザードンの顔面に叩きつけられた水圧は、ポケトレを拘束していた腕を緩ませた。
初めてポケモンの技を出したが、そんな感動にひたる暇も余裕もない。ポケトレはリザードンを振り切ると、走り出した。ちょこちょこ動く足がもどかしい。

“おれの卵を産んでくれ”

ああ、確かにいい殺し文句だろうさ。でもそのあとはどうするつもりなんだゼニガメ。まさかまさか本当にアイクさんに卵を産ませるつもりなのかゼニガメェェェェェェェェェェ!!!!!?
混乱する頭の中はモザイク処理された18禁映像で埋め尽くされている。うぶな少年の想像には限度があったが、それでもアダルト指定な妄想は止まらない。まずい、非常にまずい。
顔を真っ赤にして涙目になっているポケトレは、無我夢中で四肢と頭をカラに引っ込めると、甲羅を滑らせた。
ちょこちょこ走るより、そのほうがよっぽど早かった。
4
アイクはわけがわからない。わからないが、今、とんでもない恥辱を受けているのは確かだ。
ポケトレがアイクの服をはだけさせ、ズボンさえも下ろしてアイクの下肢をあらわにした。
抵抗しようにも両腕はいつの間にそこにいたのかフシギソウの蔓で巻き取られ、動かせない。
苦々しい顔でフシギソウを見たが、フシギソウは同情するような申し訳なさそうな、バツの悪そうなそんな顔でアイクを見返した。
そうこうしている間に、ポケトレがアイクの膝を無理やりぐいと開かせる。
「な・・・、おいッ、トレーナー!」
「なぁにー?」
のんびりした口調で答えられるが、アイクからしたら「なぁにー?」じゃないッ!と怒鳴りたいところではある。
グ、と苛立ちを抑えて、低い声でうなる。
「なに、やってんだ、あんた・・・、」
「・・・・・アイク、好きだよ?」
「それはわかった。俺はなにやってんだと聞いてる」
「おれはアイクが好き。おれの卵を産んでほしいんだ」
真顔をしたポケトレはどう見ても本気だったし、冗談を言っている風には見えない。だからって、そうかそうかと納得したら、ナニをされることか。
アイクは声を低くして訴える。
「俺は男だ」
「おれもオスだよ。おそろい」
ひょこ、とポケトレが身を乗り出してアイクの顔を覗き込む。無理やりにアイクの足を開かせている本人だとは思えないくらい無邪気な顔をしている。思わずアイクが気圧されるくらいに。
だが言っていることは素っ頓狂だ。ポケトレは本当にどうしてしまったんだ?
「男は、卵を産めない」
「それでもいいよ」
「あんたな・・・。俺に、卵を産んでほしいんだろ?」
「ただのプロポーズだから。言葉だけ。いくらおれでも、オスが卵を産めないくらいのことは知ってるよ」
ほんとは産んでほしいけど。と付け加えて、ポケトレは微笑む。
「おれはね、アイクにおれの気持ちを知ってもらいたいんだ」
どこかおっとりとした幼い口調で言って、ポケトレが無遠慮に指を一本、アイクの中へ押し込む。
突然だったし、異物が逆流して入ってくる感覚は痛いし気持ち悪いしで、アイクはひゅくっ、と息を飲み込んだ。無意識に眉が寄る。指は、内壁が異物を押し出そうと蠢いても気にする様子もなくさらに奥へと入ってくる。
「ぐ、ぅ゛、・・・ハッ、ぁ、んたの、っきもち・・・?」
体内を探る感覚に耐えながら、アイクは尋ねた。
ポケトレは指を止めることなく、アイクの目を見ながら言う。
「本気だよ、おれ。アイク、好き」
「ぅ、ぃあ゛、ア・・・ッ!!」
もう一本、指が増やされる。
圧迫感と痛みが増して、視界がぶれたが、抵抗は出来ない。拘束された両手が強張ってビクンと身じろいだ。
ポケトレの言葉に意識を向ける余裕はなかった。
バラバラと指が二本、動き回る。内壁を容赦なく擦り、抉り、突き上げる。動きは無茶苦茶だった。
ハッ、ハッ、とアイクの胸がせわしく上下するが、ポケトレは指を止めない。顔からは笑みが消えていて、余裕がないように見える。
結局、ポケトレは指を抜いた。「はいるかな・・・?」と小さく呟いたのを、アイクは聞いた。
「ごめん、時間がないかもしれない。いれる、から」
「・・・本気、か・・・・・?」
「本気。おれは最初から本気だよ、アイク。本気じゃなきゃ、わざわざこんなこと、しないよ」
真摯な口調が響く。今更、アイクはポケトレの本気を疑ったりしない。
ふ、と小さく息を吐いて、出来うる限り力を抜いた。後孔に、指ではない熱を持ったモノがあてられる。痛みを覚悟して、目を閉じる。
「すき」
「・・・っぐぅ、ぁ・・・・・!」
幼いながらも芯を持ったソレが入ってくる。
「好きだよ、好きなんだよ、アイク・・・、」
「ん、ぅぅー・・・・・、」
こじ開けられる痛みはそうとうだったが、それは我慢できる。ただ、とにかく気持ち悪かった。けれど、ポケトレが泣きそうな声で訴えてくる言葉を聞いていると、なんだかもう、なんでもよかった。
「アイク、好き。ダイスキ」
「ふっ・・・、ぅ、ん・・・、わかった。わかった、から。トレーナー・・・」
あんたが俺を好きなのはわかったから。アイクはなんとか頷いたのに、ポケトレは切なそうに、悔しそうに、顔を歪めた。
なんでそんな顔をするんだ?
「・・・・・はっ、アイクぅ・・・、全部、はいった」
「ああ・・・、そう、だな・・・」
「大丈夫?つらくない?」
「・・・・・苦しい。気持ち悪い」
正直に伝えれば、ポケトレは情けないくらい悲しそうな顔をしてうなだれた。思わず苦笑を誘う。
そこでアイクはチラ、と視線をフシギソウに向けて、腕に巻かれた蔓を軽く引っ張る。アイクの目を見て察したらしい、フシギソウは蔓の拘束をしゅるしゅると素直に解いた。それから、ふいとそっぽを向いた。気を使っているつもりなのだろうか、どうにせよ聡いポケモンだと、アイクは感心する。
やっと自由になった両腕は、動かすのが少しだるかったが、アイクはその両腕をまだうなだれているポケトレの首に回す。ゆるく抱きしめる形になって、ポケトレが驚いたように顔を上げた。
「これから、気持ちよくしてくれるんだろう?」
「っ、うん。うん。気持ちよくする!」
「なら。・・・早くしろよ」
「うん!アイク、アイク、おれ、がんばるから!」
一転してぱぁっと明るくなった表情に、今度こそアイクは苦笑した。が、次の瞬間には体内のモノが動いて中を突き上げたので、息を呑む。
「っ・・・、ぐ・・・ッ!」
「すぐよくするから」
ちょっと待ってね、なんていいながら、ポケトレは腰を動かす。探るように内壁を押されて、圧倒的な圧迫感と気持ち悪さに辟易しきったころだ。
「んっ、・・・!?」
体全体に痺れが走ったような、強い刺激が巡る。
あまりに唐突で衝撃的で、気持ちいいのか悪いのかさえはっきりしないくらいの刺激だ。
「ここ?ここだよね?アイク、イイよね?」
「聞く、な・・・っ」
「うん、ごめん」
軽く謝りながらも、ポケトレは動きを止めない。その一点を狙って突いてくる。
「っひ、あっ、ああっ、んあ゛っく・・・!」
「ああ、いいな、アイク、その顔、すっごく、イイ。おれ、その顔も好き。アイクがする顔、なんでも全部見たいよ」
「んっんっ、やめぇ・・・ッろ、そこ、ばっか、り・・・はぁっ、ぅうー・・・ッ」
「アイクの顔、声、体、全部好きだよ。おれね、言葉は通じないけど、ずっとアイクに言いたかった。おれはポケモンで、マスターのもので、アイクは人で、でもね、おれ、アイクが好きで。全部好きで。初めてなんだ、こういうの。マスターのことも大好きだけど、それとは違うんだ。アイクが好きなのは、違うんだ。人の言葉、言い回し、よくわからなくて、苦手で、アイクに伝わるか不安だけど、今言わなきゃ、これから先おれの言葉は永遠に伝えられないから、」
「・・・・・な、ん・・・?」
「愛してる」
「・・・・・?」
「愛してるんだ、アイク。いつまでもアイクと寄り添ってたい。朝起きてから寝るまで一日中アイクを愛するよ。死ぬまで、死んでからも、ずっとずっと愛するよ。好きだから。ねえ、アイク。おれのモノになって。そしたら、アイクが望むこと、なんでも叶えてあげる。アイクだけを見るよ。誰よりも何よりも、マスターよりも、アイクを大事にするよ。おれの全部、アイクのものでいい」
「トレーナー・・・?」
「アイクが好き。愛してる」
揺さぶる動きを止めて、ポケトレが強くアイクを抱きしめる。肩に顔をうずめてしまって、表情はうかがえない。
アイクはアイクで、言われた長文の意味を解析中だったから、固まって動けずにきつい抱擁を甘受する。頭の中では、熱烈な愛を受け止めるよりも、ポケトレに対する違和感が急激に膨れ上がっていた。ポケトレなのにポケトレじゃないような、強い違和感だ。
なにか違う。
「・・・・・あんた、本当に、トレーナー、なのか?」
聞いた途端、ハッとポケトレが顔を上げた。それから悔しそうに顔をしかめさせて、ポケトレは止めていた動きを再開する。
「ッく、!!」
「・・・違うよ」
「ぅ・・・あっ、ああ・・・っ、」
「おれはマスターじゃない。アイク、おれは・・・っ」
ポケトレの目はアイクを睨みつけるように鋭い。その目を呆然と見返しながらも、激しくなる抽挿にアイクの頭の中は真っ白になっていく。がくがく揺すぶられて、中のモノがゴリ、と前立腺を押し上げると、たまらず、アイクは背を大きく仰け反らせ、全身を震わせる。
「おれはっ、」
「あぁッ―――!!」


『ゼニガァアアアアーーーーーーーーーーッメッッッ!!!!!』


ゼニガメの叫び声とドアをぶち破る音とアイクが達したのは、ほぼ同時だった。
時間切れだった。
5
意識が白塗りになって一瞬飛んだのを、ゼニガメの体でポケトレは感じていた。
自室の扉をA横スマッシュでぶち破ったポケトレは、部屋の中を直視することなく意識が飛んだのだ。
けれどそれも一瞬のことで、すぐに意識をとり返して、ポケトレは目を開けた。ポケトレの本来の体で何かを企んでいるらしいゼニガメの凶行を止めなければならない。

だが、

目を開けて飛び込んできたのは、服をはだけさせ下肢をあらわにしたアイクと、彼と繋がっている、自分自身。
何故か体中が心地よい気だるさに包まれていて、ポケトレの背に回していた腕を脱力気味にベッドに落としたアイクは、全身をびくびく震わせている。ちなみに、ポケトレの一部分はいまだにアイクと繋がっていて、生々しく内壁に包まれている。
硬直していたポケトレの顔が、徐々に血の気を失って青ざめていく。
見るからに状況は明らかだった。

ゼニガメは、アイクに卵を孕ませてしまったのだ。

自身を抜くこともなく、呆然と固まるポケトレの視界に、同じく呆然としながらちょこちょこ歩み寄るゼニガメが入り込む。
とっさに、怒鳴ろうとした。叱ろうとした。なんてことをしでかしてくれたんだ、と。

だが、
ゼニガメの表情は、ポケトレ以上に呆然としていて、悔しそうで、泣きだしそうで、いや、もう、泣いていて。

大きな瞳からぼろぼろ大粒の涙をこぼしているのを見るに、ポケトレも出そうとしていた怒声を飲み込んだ。そのくらい哀れな顔をしていたのだ、ゼニガメは。
そうしてゼニガメは、ぜにぜに泣きながら跳躍する。跳躍、なんて書くと格好いいが、実際はぴょんと飛び跳ねてダイブしただけだ。アイクの上に。
「ぅグッ」
当然、腹の上に勢いよく乗ってきたゼニガメにアイクは呻いたのだが、だるそうに目を開けて、呆然とするポケトレと胸にひっついて泣きじゃくるゼニガメを見比べて、ひとつかふたつ瞬きをして、泣きじゃくるゼニガメの頭を優しく撫でた。顔には苦笑を浮かばせて。
それを見ながらポケトレは思い出す。
ゼニガメはアイクが好きなのだ。
この体で人の言葉で告白がなったのかはわからないが、ポケトレは目の前で展開される二人――というより一人と一匹――の世界に、その雰囲気に、ばつが悪そうに目をそらした。
それからまだ自分とアイクがつながっていることに気付いて、ちらりとアイクの顔を眺めてから、ゆっくりと自身をソコから抜いていく。
一言声をかけてから動けばよかったのだが、ポケトレは二人の雰囲気に躊躇してしまってそれも出来ず、結果無言で抜いてしまったのだが。アイクからしてみれば突然だったもので、思わず身体を強張らせて「ぅぁ、」と情事の名残を思わせるかすれた声を漏らしてしまい、ポケトレを赤面させた。ポケトレは目だけでアイクに謝った。

ゼニガメはしばらく泣きやまなかった。アイクもその間ずっとゼニガメの頭をなで続けた。
動くこともできずにそれを見守ったポケトレ少年は、この上なく居心地が悪かった上、知らぬうちに童貞を卒業してしまったあたり、ポケモンと人間の異種間の愛に泣くゼニガメよりも、よっぽど不幸で哀れだったりする。