| 「1.・・・拾っちゃった」の続き |
|---|
|
それで。 いったいどうするつもりなのかと。 「ふん、お前がなんと言おうが我はこれを飼うぞ」 「主・・・」 「飼うったら飼うのだ」 もしかしたらこの男は、どこかで頭でもぶつけてきたのかもしれない。 2.責任もって面倒見ます とりあえず長椅子に気絶したままのアイクを置いて、漆黒の騎士とアシュナードは向かい合っていた。 なにが気に入ったのか、アシュナードは拾ってきたそれをひどく手元に置きたがっているが、しかしそんなことが許されるはずがない。なにせ拾ってきたのは敵軍の総大将だ。加えて漆黒の騎士としてもここでアイクをどうにかされると色々と困るわけで。 しかし無防備すぎだろうクリミア軍! だなんてツッこみはよもやすまい。漆黒の騎士は目の前の狂王をどうしてくれようかと考えるだけで精一杯なのだ。 「主」 「くどいぞ」 「こればかりは退けません」 「我とて愛玩動物に癒されたくなることもある」 「主にはラジャイオンがいるではないですか」 「半獣は好かぬ」 ぷいっ、だなんてどう反応していいかわからない可愛らしい効果音つきで顔を背けられれば、漆黒の騎士とて本気で目の前の男の正気を疑うしかない。 果たしてどこからツッこんでいいかもわからず、漆黒の騎士はとりあえず押し黙った。 アシュナードは諌める声が絶えたのをいいことに長椅子に歩み寄って、いまだ気絶したままのアイクを見下ろして、クックッと暗い笑い声をもらしている。傍から見ていて危ういことこの上なし。 それでもどう動いていいものか判断しかねている今、漆黒の騎士としてはいっそアイクを無理やり覚醒させたいところである。 いや、逆に、そうすべきなのでは。 まさに名将の閃きであった。漆黒の騎士は鎧をガチャガチャいわせながら歩き、アシュナードが振り向くよりも早くガッとアイクの両肩を掴み上げ、前後に揺り動かしてみる。 突然の漆黒の騎士の奇行に、アシュナードは動じない。それどころか、 「どうした、気でもふれたか」 なんて、貴様には言われたくないと思わず漆黒の騎士は言いそうになったが、そこはどのような状況にあろうと漆黒の騎士、己が本当に使える主の笑顔を思い浮かべながらなんとか自分を落ち着かせようと努める。 果たしてその努力は実ったのだが、体のほうは制御できていなかったらしい。 「ククッ。首がもげるぞ?」 「あ」 無意識のうちにアイクを揺さぶる手に力がこもっていたらしい。加減なしにぶんぶん揺さぶった様を見てアシュナードは揶揄ったのだが、あながち本気でもげていてもおかしくはない速度ではあった。 思わず間抜けた声を出して手を離す。 ゴスッ、と音がしたのは、落としたソレが長椅子の手すりに頭をぶつけたからだろう。痛々しい音に漆黒の騎士の良心もズキズキ痛む。 最初に連れてこられたよりも心なしかさらにぐったりしたアイクの様子と、良心の呵責に苛まれる漆黒の騎士の様子を眺めながら、アシュナードはもう愉快で愉快でたまらないといった顔をしてククククク、と笑っていた。 * 呼びつけた衛兵のライブのおかげで、だいぶマシになったアイクを前に、漆黒の騎士はアシュナードに言った。 「いいですか、主。百歩譲ってこれを飼いたいという主張は認めましょう。ですが、」 「これの主張も聞き入れろと言うのだろう。くどいわ」 「そうです。これが帰りたいと言ったらちゃんと返すのです、いいですね?」 「ククッ、わかっておる」 嫌な笑みに漆黒の騎士は不安でたまらない。 なんとか話はまとめたし、なんとか約束も取り付けたものの、いざというときは約束を反故にされそうで怖い。 だがこれであとはアイクが目覚めて、なんなんだあんたら冗談じゃない俺は帰るぞとでも言ってくれれば漆黒の騎士の苦労も報われるというものだ、多分。 漆黒の騎士が隠れてグッ、と拳を握ったとき、ぅ、と小さく呻いて、青い頭が動いた。 思わず二人してアイクの顔を覗き込む。アイクの瞼がピクリと震えて、ゆっくりと目を開く。 ぼんやりする思考で目の前の顔ぶれを眺めて、眺めて、やがてアイクは小さく首を傾げた。 「・・・・・頭、痛っ・・・?」 「・・・・・・・・・・すまない」 「クッ、」 罪悪感から謝る漆黒の騎士と、その様に笑うアシュナード。なぜか痛む頭がしだいにはっきりしてきたころ、アイクは漆黒の騎士に目線をあわせて、ようやくハッした顔になった。 「あんた・・・、なんで、っ?」 言葉もすんなり出てこない。混乱しながらあたりを見回せばまったく見も知らぬ場所で、しかも目の前には漆黒の騎士と今だ愉快そうに不愉快な笑いをする男がいて、そういえばここは内装的に城の中のようだから、もしかして、まさか、いや、つまりここは―――? 「デイン、か・・・?」 「ほう? 割りに賢いな」 アシュナードが嬉しそうに、いや傍から見れば怪しい笑みなのだが、笑ってアイクの頭を撫でようと手を伸ばす。 ペットの飼い方、なんて本を密かに読破していたこの男は、褒めるときはペットの頭を慈しみながら撫でるのです、なんて一文を実行したくてしようがないのだ。 無論その手に警戒しないわけがない。ここが敵地であるとすればなおさら。 アイクが身構えたのは、当然の対処だった。 「あんた、デインの狂王か?」 「クッ、いかにもそうだが? まあ、そんなことはどうでもいい、我におとなしく撫でさせろ」 「は?」 嫌な具合ににじり寄るアシュナードの妙な気迫に、さしものアイクも気圧されて後ずさる。 ソファの上に追い詰められて、アイクが切羽詰った声を上げた。 「ちょ、おいっ・・・、漆黒ッ! 見てないで止めてくれ!」 「主」 「撫でるだけだ、かまわんだろう?」 「・・・撫でるだけなら」 別にそれくらいならばいい。正直漆黒の騎士はあまり首を突っ込みたくなかったので、撫でるだけと言うならいくらでも撫でればいい、と思う。アイク本人が嫌がろうが、そう、撫でるだけなら。 いやしかしなにをどう思って嫌がる青年を撫でようとするのか、狂王の思考はわからないしわかりたくもないものである。 そうこう考えているうちに、アシュナードはようやっと、アイクの頭を撫でていた。 「っ・・・・・、・・・、・・・?」 「クッ、我は敵ではないぞ」 いや敵だろう、とは漆黒の騎士の心の中だけでのつっこみであったが、アイクは少しだけ警戒を解いたらしい。頭を撫でる大きな手に何かを思い出したのかも知れない。 アシュナードはこれで、頭を撫でること、そしてペットに敵でないことをわからせること、を実践したわけで、満足げな顔をしている。 アシュナードがアイクの頭を撫でているあいだ、なんともいえない沈黙が場を支配していた。 * それでつまり。 「俺を拾ったのがあんたで、だから俺はあんたのペットだと、」 「そうだ」 「・・・・・・・・・・」 いくらアイクだとて、そうと言われてハイそうですかなんて答えるわけがあるまい。 たとえ天然でズレた思考を持つアイクだとしても、自分をペットだなんていわれればさすがに反抗だってするだろう。漆黒の騎士はそう思う。 今すぐふざけるなとでも怒鳴って出ていくと言ってくれれば、転移の粉で元の場所に還してやろう。 だが、 「ペットって、あんた、俺はベオクだぞ」 「ククッ、なら奴隷とでも呼んでやろうか?」 「それは嫌だ」 「そう言うだろうと思って、我はあえてペットと呼んでいるのだ」 「・・・・・そうか?」 漆黒の騎士が思っていたより、クリミア軍の大将は頭が足りないらしい。首をかしげてはいるものの、そうなのか? と聞きながら漆黒の騎士を振り返るアイクはきっと何も考えていない。 いやいやそんなことないよもっとよく考えなさいよ、と漆黒の騎士が思わず親切なお兄さん口調でさとしそうになったが、その前にアイクはどうやら自分がペットだと納得してしまったらしい。 「・・・俺がペットだとするのはまあ、この際どうでもいい」 いや、よくはないだろう。 「けど、俺はエリンシアに雇われている身だ。クリミアを取り戻さない限り、あんたのペットになるわけにはいかない」 「ふん・・・・・・・・・・・・、」 実に嫌な沈黙だ。 アシュナードがこれ以上なく真剣な顔で悩んでいる。 いや、悩むことないだろう、リリースしてやれよアイクを。はなから敵軍の大将をペットにすることが無理だったんだ、と漆黒の騎士は思ったし、心の中だけで叫んだ。 しかしアシュナードの黙考は続いている。何を考えているのかは知らないが、このままほうっておいたなら何を言い出すかわかったものじゃない。 経験上わかっていたはずなのだが、漆黒の騎士は、また、出遅れてしまった。 アシュナードは、手のひらをポンと叩いて、言った。 「ならば一週間だけにしよう」 「・・・・・は?」 「なるほど、一週間だけなら、まあ、たぶん、いいだろう」 それくらいならティアマトも許してくれるだろ、なんてしたり顔で頷くアイクに、豊かな赤髪をもった女傑を思い浮かべるが、おそらくどう控え目に考えても彼女は許してくれないだろう。きっと。 「クッ、話が決まったな」 「ああ。世話になる」 「任されよう」 「・・・・・!」 冑の下で漆黒の騎士はパクパクと口を動かすが、言葉は出なかった。 敵対しているはずの双方の大将は、どちらもどうしようもない馬鹿だったらしい。そして、その暴挙を止められるほどの地位も力も今の漆黒の騎士は持ち合わせていなかった。 きっと何かを喋っても、上機嫌にクツクツ笑っているアシュナードに、理屈にならない理屈を並べられて黙らせられることだろう、アイクの追い討ちも交えて。 言葉を出せずにいる漆黒の騎士を振り返って、アシュナードは言った。 「任せろ、我が、責任もって面倒を見てやろう」 それが一番不安なのだ、と、漆黒の騎士はやはり、言葉に出来なかった。 拾い愛10のお題。配布元:創作者さんに50未満のお題様 | アイク←サザ←レオナルド前提レオアイ |
|
「・・・なんの、つもりだ?」 「案外、気付くのが遅いんですね」 アイクの押し殺された低い声にも動じることなく、レオナルドは小さく小首を傾げた。 どこか淡白な整った双眸に見下ろされ、それを睨みあげる目が更に鋭さを増す。現状を理解できなくとも、今の状態が思わしくないことだけは確かだった。 ギリ、と無意識にかみ締めていた奥歯が音を立てる。己の情けなさが何より苛立たしい。 いくら自陣とは言え、他人の接近に気付かず、眠りこけていたのだ。 軍を率いる身であるにも関わらず! そうしてやっと目を覚ましてみればこの状況。 両手は頭上で一纏めに拘束され、股の上にはレオナルドが乗っかっている。 華奢な体躯をした少年一人、普段のアイクであれば簡単に退けることも出来るだろうが、四肢の自由を奪われた今、ことはそう簡単には済みそうもない。 「神直属の将軍が、こんなに簡単に隙をとられていいんですか?」 「・・・ッ、何が言いたい・・・」 「別に。ただ少し無用心じゃないかな、と」 相変わらず、レオナルドの表情は淡々としている。 一体、何を考えている? 態々そんなことを注意するために、勝手に天幕に忍び込み(しかも軍の最高峰にある天下の将軍様の天幕だ)、動きを封じるよう拘束をして、人を見下ろしているわけではないだろう、と思いたい。 淡白な顔をしたレオナルドからは、殺気の一つも感じられないから、恐らく暗殺関係でもあるまいし(今更自軍にスパイというのもおかしな話だが)。 第一、対して面識のないはずのレオナルド相手に、なにをされるのかなんて検討がつこうはずもない。 この理不尽な状況が、アイクにはむず痒くてイライラしてたまらなかった。 「もう一度聞く。・・・なんのつもりだ?」 「・・・・・・・・・・・」 レオナルドが小さく首を傾げる。何かを考えるように少しだけ眉をひそめて、少年は宙に視線を向けた。 明らかに考え込んでいる仕草だ。これで何の理由もなかったら一発ぶん殴ってやることにしよう。 しばらくの沈黙の後、レオナルドがコクンと一つ頷いた。 「夜這いしに来ました」 「・・・・・・・・・・はあ?」 いかなアイクとて、ここまで珍妙な答えが返ってくることなど、想像も出来なかったわけで。 素っ頓狂な声が無意識に漏れてしまっていたとしても、まあ仕方のないことだろう。 なんの冗談かと勘繰るも、レオナルドの表情は笑みの一つを浮かべるわけでもなく、あくまでも真面目そのものだ。 「前々から、興味はあったんです」 彼が、貴方を気にしていたから。 「どんな人物なのか、どれほど魅力のある人なのか」 貴方を語る彼の目は、どこまでも恍惚としていたんだ。 「いったい何が、彼を惹きつけているのか」 レオナルドの目が細められる。一瞬だけはじめてその瞳に色が浮かんだ。 危険な色だ。 少なくとも、友好的なモノじゃない。アイクの顔がますますしかめられる。 “彼”が誰だかは知らないが、わけのわからん理由で夜這いされるなんて御免だ。 「こうしてあなたのもとに配属されて、僕はずっとあなたを見てた。でも、まだわからない」 強さ? カリスマ性? 性格? 見た目? 彼はどこに魅力を感じているんだ? レオナルドは考えて考えて考えたけれども、困ったことに答えはちっとも出てきやしない。 確かに圧倒的な強さや、指揮を執る姿の凛々しさには少しばかり尊敬を覚えるけれど、“彼”がアイクに向けている恋慕の感情はレオナルドにはわからない。 わからないことがもどかして、レオナルドは強攻策に出たのだ。 |